こんにちは。
まだまだ暑さ厳しく、湿度も高いので過ごし辛いですね。
先週は神宮花火大会がありました。むなしく音だけ聞いておりましたが、、、。
今週より仕事がスタートされる方も多い事かと思います。
さて、今週は久しぶりに技術的なお話をしたいと思います。
ヘリンボーン柄のクラシックなオーバーコートを着た紳士、
ラペルには花を飾り、手にはグローブとステッキ、頭にはボーラーと 正に英国紳士といった感じです。
・・・・・スーツは基本的に三つ揃いが前提であり、昨今では上下のみの 2P-SUITS が主流と成っております。
本来では略式となる 2P-SUITS が政権を担っていると言えますね。
3P-SUITS のそれぞれアイテムですが、英国的な呼称では
上着から COAT ・ WAISTCOAT ・ TROUSERS となります。
一般的に『 ジャケット 』と呼ばれる上着はコートと呼ばれ、そのコートの上に羽織るからこそ『 OVER COAT 』となります。
であれば、そのオーバーコートはサイズ的な部分も含め、基本的には上着に準じているべきであり、共にインナーとアウターとしての相性がとても重要と言えます。
(オーバーコートと言っても、様々なスタイルやデザインがありますが、チェスターFコートやカバートコート等 比較的体のラインに合ったテーラードコートを前提にお話致します。)
スーツは誂えたとしても、オーバーコートは既製品を着用されている方もいらっしゃる事と思います。
それら既製品は、どんなインナー(スーツ)が着用されるのか分かりません。当然色々な体形の方もおります。
であれば、ある程度はどうしても『大は小を兼ねる』といった理論で設計されていなければ多くの人に着てもらう事は出来ません。
当然アームホールは大きく、深く、腕など上がりませんし
袖も直線的で太く、、、もともと手足の長くない日本人が自身の袖丈に合わせれば かなりアンバランスな袖になってしまう事も否めません。
それらはシルエットやデザインバランス等にも言える事です。
【オーバーコートをTAILORで仕立てる】
これはどういった事なのか、、、
その TAILOR では、スーツやジャケットをご注文下さった方々の型紙があります。
補正(仮縫い含む)を施し、その御注文主様の為だけに設計され 誂えられる服。
当然お好み的な要素も反映されております。
身長も様々、同じ身長でもそれぞれの腰位置は違いますよね。
他にもお痩せに成られていたり、お太りに成られていたり、
撫で肩や怒り肩、反身体や屈伸体、
例え同じ胸囲の方がおられたとしても、その胸の厚さや肩幅は違います。
そして、左右対称の身体をされている方は極稀です。
どちらかに傾いていたりします。どちらかの肩が下がっていれば、その歪みを支えようと腰の高さも高低差が付くものです。
(勿論個々での度合いの差や例外はあります。)
テニス等の様に 利き腕を酷使されるスポーツを長くされている・いた方は、当然腕の太さや胸の厚さまで左右違ったりもします。
その他、骨折された経験があったりと本当に様々であり、挙げていけばキリがありません。
それだけ人間の身体は複雑でもあり、十人十色という訳です。
どんなに素晴らしい生地であろうと、どんなにデザインや仕立てに拘ろうとも
身体に合っていなければ無意味であり、それら拘った仕立てでさえ そのポテンシャルが生きないという事に成ります。
専門技術により苦労して作り上げられた型紙には、そのお客様の体系的な情報が隅々まで内蔵されております。
であれば、インナーと成るコート(ジャケット)の型紙から オーバーコートを導き出せば、自ずとそれら沢山の情報が予め詰まった型紙が自動的に引ける事に成ります。
それがTAILORでオーバーコートを誂えるという事です。
適正なユトリを与えれば良いだけですね!
勿論様々なオーバーコートのスタイルもありますし、お客様のお好みもありますので
単純に言えば それらに応じてユトリ量を加味する訳です。
故に、採寸や仮縫い無しでも精度の高きオーバーコートを仕立てる事が可能であると言えます。
ただ、そうはいっても 丈のバランスや身幅のユトリ感、デザインバランスなどはお好みもありますので、そういった部分を確認する作業を行う事は必要と成ります。
この様に仕立てられたオーバーコートのインナーとアウターとしての関係は
正にパズルやブロックを組み上げるが如く 合致性の高いオーバーコートとなる事が御理解頂けますでしょうか。
技術論は文字ばかりに成りますね、、、しかも分かり辛いかも知れませんがお付き合いくださいませ!!
では、ここで BESPOKE のご注文による型紙展開を通じ、どんなに適合性が高いのかご覧頂きたいと思います。
先ずは、お客様の情報がふんだんに詰まった上着の型紙をトレース致します。
見え辛いですよね、、、すみません。上着の前身頃です。
(写真をクリックして頂くと拡大致しますので、宜しくお願い致します。)
大体の輪郭がお分りに成るでしょうか。
型紙を構成する上で、欠かせぬ構築的な線があります。
縦方向である前中心線や、横方向のバスト、ウエスト、ヒップなどを構成する線ですね。
上半身の部分です。
肩傾斜はそのままに、適切なユトリを与え
アームホールは当然少し下げ、幅も広くします。これら加減が重要です!
インナーに対し、肩線含め 首元の上部方向へも高さを足しています。
この足した分は着用し肩に乗れば、もう少しカマ深(アームホール)も落ちてくると言えます。
しかし、これはアウターである以上 インナーを覆うに必要な『外回り量』、そして『生地厚』などが加味されてもおりますので、足した分量そのまま落ちてくる訳でもありません。
アームホールの傾斜、胸幅、クリのカーブに伴うRのバランス。
お客様方には分かり辛いと思いますが、、、
ほぼ同じ線をトレース致します。どこを基準とするのか、それが大切です。
そうですね、、、ロシアのマトリョーシカ人形の様だと思って下さい。
人形をカパッと開けたら、少しだけ小さな同じ人形が出てくる!
原型にのっとり、正確に縮小・拡大されているという事に近いです!!
腕の動きに対する追従性含めた機能性、インナーとの適合性
既成品や他店でオーバーコートを仕立てた場合、ここまで精度を追い掛ける事が出来る訳がありませんよね。
しかし、デカければ問題も無い(表面化し辛い)、
先の人形に例えると、例えば3連で人形が内蔵されているとすれば、2番目の人形を抜き
一番大きな人形の中に、一番小さな人形が入っているという事です。
スペースはゆるゆるになりますので、中で小さな人形は随分遊べてしまうと言った所です。
奥がフロント側に成ります。
手前側が脇線となります。
左には裾線が見えます。
どこもかしこも線が二重(二連)と成っているのが分かりますでしょうか。
インナーを覆うアウターの線が外側になります。
インナーであるコート(ジャケット)の
ウエスト位置やポケット位置等も綺麗に連動されます。
当たり前の事なのですが、インナーとアウターで、エレガントなウエストシェイプが適合していなければ どんなに台無しに成ってしまうでしょうか、、、。
見栄えも歴然として違ってまいります。
はい、大体引けました。
これで大体ちょい膝上丈です。
ラペルはノッチですが、腰ポケットは冒頭のイラストの様にスラントのリクエストで御座います。
首元にネックポイントという重要なポイントがあるのですが、
設定の仕方により、同じ身幅だとしても随分着用感も変わる所です。
色々と勉強や経験踏まえた事がこの型紙に良かれと思う塩梅で落とし込まれています。
勿論 お客様との打ち合わせの上での設計と成りますが、やはり私の提案的な要素も多分にある為、BESPOKEであれば仮縫いという行為において答え合わせをする運びと成ります。
これが HOUSE STYLE ORDER であれば、サンプルを着用して頂きますので、
そのご試着自体が仮縫いであり、そのサンプルの丈やユトリ感でご確認して頂く事に成ります。
ただ、この時点でのご試着に付き、インナーは誂えでもアウターのサンプルは既製という事に成りますので、FITTING の適合性は良くありません。
故に、それがどの様な状態で、どの様に成るのか、、、分かり易くご説明させて頂く事も私の役目で御座います。
・・・・・・・・・今回の話題は文字ばかり、、、写真も見辛く、シロート様にはチンプンカンプンかも知れません(汗)!!
どうしても説明に多くの文字を有してしまいますので、2週に分け
前半戦はここまでとさせて頂き、来週完結する事と致します。
ご興味無い方には恐縮では御座いますが、、、宜しくお願い致します。
・・・・・・・・・何故 今回の様な話をいちいち一生懸命書いているのでしょう。
それは、皆様の多くがご存じない事だからです。
私はこれらを学んだ時、どんなに感動し衝撃を受けたでしょうか。
聞いてしまえば至極当然!! 当たり前と言える事ではあります。
オーバーコート自体のインナーにライナー付の物がありますね。
当たり前ですが、そのコートより導き出し設計されます。
でなければ上手く合体出来ませんよね!
誂える事が一般的だった時代から、
どんどん機械化が進み、大量生産出来る様になり 既製服が台頭して参りました。
多くのメリットがあるからこそ、ここまで普及した訳ですが
逆に失ってしまった事も多く御座います。
装う事を楽しみ、重要視される・出来る方々、
誂えるという事を尊重して下さる方々には、本来あるべき姿というものをお伝えしたいと思っているからです。
ユトリ多きカジュアルなAラインのコート等であれば、そんなに高度な適合性は必要ないとも言えます。
しかし、逆を言えば そんなAラインのコートでさえ この様に設計されているとしたら如何でしょうか。
見栄えから着用感、インナーとアウターのそれぞれの落ち着き方など全てが違って参ります。
結論的には皆様の価値観の持ち方次第と成りますが、
御判断される為の材料と成る情報として少しでもお役に立てる事が出来ましたら
書かせて頂いた甲斐が御座います。
最後までお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。
また来週も…
頑張って書きますので、是非宜しくお願い申し上げます。