こんにちは。
10月も後半ですが、夜遅くに帰宅する頃は寒さを感じるくらいになって参りましたね。
2014年も終わりが見えてきております。
BESPOKE も遅れており、焦る日々が続いております、、、、。
楽しみにお待ち下さっておられるお客様方、本当に申し訳御座いません。
一生懸命頑張っておりますのでもう少しだけお待ち下さいませ。
さて、皆様 そろそろコートが恋しくなる季節では御座いませんでしょうか。
様々なコートのスタイルが存在する中で、やはりテイラードコートとして考えれば
先ずは チェスターフィールドコート、ポロコート、そしてカバートコート辺りが筆頭に挙げられるのではないでしょうか。
その中で、今回は私の大変思い入れが大きな 【 COVERT COAT 】 について歴史と共に掘り下げ、御理解と共に皆様にも是非お勧めさせて頂きたいと思っております。
このカバートコート、英国においては かなりポピュラーなコートと言えるでしょう。
今週、来週と2週に分けてお話させて頂きますが
今回は そもそもカバートコートとは!? という観点から始めて参りましょう。
またまた お勉強タイムです!! 紳士服は学びです(笑)。
【 COVERT COAT 】
カバートクロス、またはカバートコーティング等とも呼ばれる生地で仕立てられたトップコートの一種であります。
先ずは名の通り、生地に特徴があると言えますね。
では、COVERT(カバート)とは!?
狩猟用語で「動物の隠れ家」の事であり、特にこの場合はキツネの潜伏場である藪とか茂みを暗に示しているそうです。
そもそもこの織物は当初キツネ狩り用の服に用いるべく考案された生地であり、藪や茂みにはつきものである水滴などにも強く、多少の防水性をも持ち合わせていると言われます。
(生地については後程 改めてお話致します。)
・・・・・19世紀後半に登場したカバートコートは、乗馬用のコートとして設計がなされていました。
しかし、1890年頃までには乗馬に縁のない大衆にまで広がりをみせ、ほぼ全てのエレガントな紳士のクローゼットには このカバートコートの存在があったと言われています。
その当時、デザインの顔立ちはチェスターフィールドコートに近いと言えますが、着丈は34インチ(約86p)を超える事は滅多に無く、結構なショート丈で仕立てられておりました。
ボクシーなシルエットに、脇にはスリットが切られていたそうです。
私自身も含め、皆様のイメージされる現代的なカバートコートからは随分と違う印象であったという事が分かります。
1893年には、より身体にフィットさせたカットになっていき
通常そのコートの下に着用されていたラウンジコートの着丈よりも 3インチ長く設計されていたそうです。
フロントの打ち合いはシングルブレステッド、比翼フロントであり、4つのポケットを持っていました。
その4年後にはラグランスリーブのカバートコートがロンドンの街角にお目見えしたそうですが、これは流行するには至りませんでした。
その後、随分長い間そのスタイルは殆ど変る事も無く、市場での存在感は徐々に薄れていきました。
時が流れ、ある書籍では1930年代にリバイバルしたともありますし、
更には1950年代に再びリバイバルする事に成ります。
(この辺りには、既に私達がイメージするであろうカバートコートのスタイルになってきてます。)
この当時は、フラップ付きの胸ポケットが特徴でもあり、正にC.ビートン氏が着用されていた あのカバートコートが頭に浮かびます。
その他、デザイン的に目立つべき特徴とは
裾口と袖口に並ぶレールドステッチ(ミシンステッチ)は欠かせませんね。
では、ここで カバートコート たる特徴をまとめてみましょう。
● フロントは基本的にはシングルブレステッドで 比翼フロント。
● シングルブレステッドのノッチドラペル。
● カバートクロスで仕立てられている。
● ショート丈(膝上丈)で、トップコートに属するコートという事。
● 4列(中には5列も)のステッチが、身頃の裾、並びに袖口にかけられている。
● センターベント。
● 腰には左右にフラップ付の玉縁ポケットを携え、お好みでチェンジポケット。
● 胸ポケットはウエルトポケットか、お好みでフラップ付き玉縁ポケット。
● 上衿は共生地、もしくはベルベットが使用される。
● ポーチャーズポケット ( Poacher’s Pocket ) を携えている事。
(これは次週お話させて頂きます。)
・・・・上記の様にまとめられているのが カバートコート という事に成りますが、
勿論 色々と例外はあります。
ダブルブレステッドのカバートコートも存在しましたし、フラップにもレールドステッチをかけた物もあったそうです。
なんか、、、、教科書の様になってきましたね(汗)。
では、これら特徴の中で幾つかクローズアップしてみましょう。
・・・・・有名なレールドステッチですが、そもそもこれは何でしょうか。
ステッチとは補強を目的としながら、装飾的な部分も持ち合わせます。
様々な書籍やネットの世界でも、日本語で記述されている範囲では 『何故に何列ものステッチが!?』 まで書かれている所はなかなかお目見え出来ません!
それだけでも今回読んで頂けた価値があるかも知れません(笑)。
これは、カバートコート自体が生まれた経緯まで遡ります。
そもそもこのコートは、乗馬用であり、狩りの時に着用されていたものです。
上記での御説明にもあった通りです。
そういった環境下、藪や茂みなどを飛び越えたりする際に
コートの裾口など 生地が引っ掛かって破れたり、解れたり、捲れてしまったりしないように 確りとヘム(折代)をステッチングし、強度と共にガチガチに止めたのが始まりだそうです。
聞いてしまえば 『確かに』 で終わってしまいますが、紳士服にはこういった特徴的なステッチひとつとっても理由が存在するのだという事です。
ただの装飾的なデザインという訳ではありません。
不安要素に対し、単純でありながら、的確な解決策でもありますね!!
このカバートコートは、裾口や袖口だけでは無く、ラペルやフロント周り、フラップなども全てミシンステッチで仕立てられます。
勿論 完全ハンドメイドの BESPOKE だとしても、やはりミシンステッチです。
(リクエストがあれば別ですが!)
ハンドメイド=手縫い と単純に考えるのは間違いであり、当然手縫いも必然的に多用されています。 むしろ手縫いだらけです。
例えば、ジーンズの様なワークウェアがあります。あれを総手縫いで作るなんて有り得ません。
生地や用途、スタイル、強度、そして効率など様々な要因により手縫いとミシンとで区別され、手法の一つとして どうするか、どちらが良いかという事に成ります。
各々の手法には、メリットとデメリットがあるからですね。
大切なのは目指す目的に対し、『適する』という観点と共に、理にかなった構築をトータルでバランス良くまとめ上げる総合的な知識と技術が重要であり、説得力高く仕立てられているのかが問われなければ成りません。
(目的、これはクライアントが要望し、TAILOR が最善の答えを服として表現するのです。)
ハードユースなこのコートを考えれば、自ずと答えが決まります。
では、改めて様々な写真やイラストを良くご覧になってみて下さい!!
上記の特徴に記されてはいませんでしたが、、、、
カバートコートは比翼フロントです。釦が表に出ず、隠れている仕様です。
そして袖口には 『開閉する為の開き』 が作られていません。
開きがあれば、それを止める為にホールと釦が必要と成り、それが俗に言う本切羽ですね。
袖口を折り返した 『ターンナップカフ』 はコートでは良く見受けられる仕様ですが、それすら有りません。 基本的には 極単純にヘムを上げ、ステッチで確りと止めているだけです。
何故なのでしょう!?
正に単純なのですが、『草木などに引っ掛かる要素は排除すべき!』 という事ですね。
であれば、当然釦などを見える所に付けるなど有り得ませんね。
また、カバートコートに使われるカバートクロスという生地ですが
その生地の特徴の一つに 『クリア仕上げ』 が挙げられます。
クリアの逆は起毛であり、フランネルの様な生地ですね。
ここでも引っ掛かる要素は排除された企画の生地であるという事が分かります。
・・・・・如何でしょうか!?
私はこれらを学んだ時、感動すら覚え カバートコートに対する愛情が何割増しになった事でしょうか(笑)。
【 COVERT CLOTH 】
では、最後に生地について少し触れて今週は終わりとします。
・・・・・19世紀初頭に登場した英国産毛織物。
本来では、縦糸に濃淡2色の双撚梳毛糸(ここがポイントです)を使い、横糸には濃色の単糸紡毛糸を用いて織られた中肉の綾織ウール地とされています。
上記の特徴により、表の顔立ちは霜降り調な表情が出ているのが分かる事と思います。
また、同じく触れましたがサージの様に起毛させない仕上げが施されているのも大きな特徴の一つです。
1880年代以降には、このオリジナルに加え 様々な種類の生地へと派生し、それらを日本では総称的に 『カルゼ』 と呼んでいました。
それら派生版には、
『ホイップコード』 『ベネシャンカバート』 『キャバルリーツイル』 などが挙げられます。
軍服地に使われていたキャバルリーツイルは、親を辿るとカバートクロスとなる訳ですね。
色目はご覧頂ける様に、ブラウン調かグリーン調の中間的な色目であり
やはり野山に溶け込むアースカラーと成っている事が分かります。
全ては目的という理由ありきです。
この伝統的でクラシックな生地は、多くの有名ミルやマーチャントにラインナップされています。
イギリス製だけでは無く、イタリア製のカバートクロスもありますが、これは流石に柔くてあまりカバートクロスとは呼びたくないファッション的なファブリックと言えるかも知れません。
冒頭の写真で使用されている弊店在庫のお勧めカバートクロスです。
こちらの生地は 英国 【 LAMOGE 】社より買い付けた 正にカバートクロスです。
ウエイトは450g
カバートクロスには、もう少し軽めもあれば、やや重く確り目もあります。
ただ、トップコートに区分けされる位ですから コート地としてはやはり中肉厚となります。
(あちらから見れば軽量級に区分されますね。)
確りと密に織り上げられ、そんなに地厚では無くても風は通しません。
多少の雨なら傘いらず、、、正に英国向きと言えます。
勿論 皺にも強く、幅広いスタイルで着用出来るカバートコートは御出張や御旅行でも活躍してくれる筈です。
重過ぎない、、、、ある意味ではこれはとても重要な要素と言えますね。
英国の老舗では、一年中カバートコートが店頭に並ぶ所もあるそうです。
上記の写真で 左に見えているのが生地の裏側、右に見えているのが表側と成ります。
縦糸に濃淡2色の糸、横糸に濃色を使って織り上げられているのが見てとれます。
色が違いますよね。
この生地は現行品であり、脂ものり ピンピンしています!
ただ、19世紀初頭に生まれたこの生地が、今でもこうやってほぼ同じ規格や品質を守り続け、今でも手に入る事。これがどんなに素晴らしい事でしょうか。
これが英国です!!
拡大写真です。
確りとした綾織地で、かつクリア仕上げであれば 柔い光沢感が出てくるというものです。
濃淡2色で織られた霜降り調な表情が良く見えますね!!
・・・・・・・・・・では、今週はここまでとさせて頂きます。
今回はどうしても解説が(文字が)多くなってしまいましたが、来週は写真を多用し
視覚的にも楽しめながら具体的な特徴や構造に迫ってみたいと思います。
では、次週も頑張って書いて参りますので 是非ご期待下さいませ。
(あ〜〜〜っ、たまには私も読む側に成りたいです(笑)。)
今週も長々とお付き合い頂き有難う御座いました。
随分寒くなってきております。どうか皆様 ご自愛下さいませ。