2016年11月01日

【 肩縫縮について 】


 こんにちは。
本日より 11月に入りました。

そろそろオーバーコートの着用も視野に入って参りましたね。


 今年中にやるべき事、、、
あと二カ月です! 毎年ながら焦りますよね。















is1.jpg



 個人的に思い入れ深き COVERT COAT
このBLOG内でも紹介させて頂きました。

http://dittos.seesaa.net/article/407464018.html
( COVERT COAT )
http://dittos.seesaa.net/article/407856620.html
( COVERT COATA )








 さて、今週はちょっとした訳も御座いまして
弊店BLOGでは人気の薄い 技術のお話を久しぶりにさせて頂ければと思います。

普段 皆様が御着用されている紳士服の仕立てについて、たまには少しお勉強もして参りましょう。
仕立てに伴う様々なテクニックや技術は、完成してしまえば 見えない・分からない事ばかりです。 中身などは裏地で蓋もされてしまいますので尚更でしょう。

 何故 仕立て良き服は時間も掛かり、お値段も高額となるのでしょうか。
ほんの少しでも垣間見る事が出来ればと思います。
















話題は【 肩イセ 】について、
カバートコートの肩地縫いを見ながら御説明致しましょう。







・・・上物を仕立てる上で、肩周りはかなり重要度の高いポジションであり
着心地などをも左右する箇所であります。







縮縫

( イセ と読みます。 )




イセ、イセ込み等の言葉を聞いた事があるでしょうか。
漢字は正にストレートです!



● AパーツとBパーツを縫い合わせて結合させる際、AとBそれぞれの距離が意図的に違う縫い目径に対し、長い方を短い方に合わせて強制的に縮め縫いを行うという技法の事を指します。






イセという行為には、主に『 立体にする 』という目的があります。
類似行為としてはギャザーが挙げられますが、ギャザーは縫い縮めた事による布の強制された寄り付きにより 細かな襞が生まれます。それをそのまま生かします。

 弊店のシャツにおける背中や袖口に施されている沢山の細かな皺がギャザーです。


同じくは、ギャザースカートを思い浮かべてみて下さい。
細かく縫い縮めればギャザー、そしてこれら縮める距離の処理をギャザーでは無く 襞をもって畳んだ場合、これはプリーツスカートに成ります。

 双方のスカート、ウエストから広がるヒップへ、そして裾にかけて優雅なシルエットをという意図的なユトリを生み出させる為に行われます。












● 対してイセは、縫い縮めにより発生した細かな皺や襞を消して綺麗に処理致します。
ここが大きな違いとなりますね。

これらの行為を業界では 『イセを殺し込む』 など やや物騒な言い方をされます。



殺し込むというのは、確りと潰す、折る等を含め アイロンで綺麗に処理して『抑え込む』という様な時にも使われます。




 では、AとBというパーツに対し、どちらかの距離を意図的に長くする事によって どんな事が発生するのでしょうか。

仮にAよりもBが長い場合、B側を立体的にしたいという意図がある訳です。
紳士服の仕立てにおいて、本当に沢山の箇所で行われている行為です。
(パーツ同士の結合でなくても、部分的な個所を狙ってイセ込む事もあります。)

 そこら中にイセ込みによる立体成型がありますし、意図的にユトリを加える裏地などキリが無い程にクセ取りと共にイセ込みは日常的に使われているテクニックと成ります。



そのイセ込みですが、分かり易くは やはり『肩』や『袖』と成りましょう。













● 上着において、アームホールを身体に合わせて小さく作り込む事は機能性を上げる為にも必要な要素です。

そのアームホール(AH)ですが、身頃(BODY)の AH寸法、そこに付く袖の AH寸法 が1対1で同寸法であると 袖筒は細くなり着辛く 動きにも影響を及ぼす事にもなります。



男性の確りした肩の三角筋をホールドしつつ、動きに対するユトリを与えるのが主体となる目的です。 また、袖が立体的となり、綺麗に丸くフワッと落ちる様な効果も与えます。
(このフワッとを支えるのが袖の内側に入る『裄綿』と呼ばれる芯の部類に入るパーツと成ります。)


 同じく肩縫い目でのイセは、身体に伴うよう定めた肩幅に対し
隆起した肩甲骨をホールドしつつ、背幅のユトリ、そして前肩成形へ繋げるという目的があります。




 因みに、、、、
皆様もご存知であろう フラットジャケットの『 MA-1 』
この秋冬でもリバイバルなのか 良く見かけますね。

 腕を前に出して操縦しますので より背幅はたっぷりとしていなければ成りません。
上記 肩イセの様な意図的考慮を 後の肩線に『ダーツ』 を摘まむ事によって処理と共に補われています。










文字ばかりで分かり辛いですね、、、、、。

では、実際に写真を見ながら肩のイセ込みをご覧頂きましょう。













is2.jpg


・・・・・左前身頃 肩部です。
ラペルが見えますね! 上部が肩線と成ります。

その肩線、白い糸印(切躾)が見えます。これが設計上での肩線であり 既に縫代が含まれています。
 しかし、更に余分な縫代も付いていますが これは様々な補正直しに対応出来る様に付けてあります。


因みに、上衿の裏側に『ヒゲ』と呼ばれる折り込まれた縫代があり、仕立て良き服の代名詞的に紹介されている事もありましょう。
 しかし、そのヒゲは この肩の余分縫代あってこそ生きる縫代(折代)であります。
肩に余分な縫代が付いていないのにヒゲだけ付けた服は、意味無きデザイン優先のディテールという事になってしまいます。
(かなりマニアックな話ですが、その服のレベルや完成度、説得力を垣間見る事が出来ますね。)



 話を戻します!
その肩線から下に 白いチャコ線を引いてみました。
(この白い線上が縫い上がり線と成ります。)
白い線に対し両側のエンド、それが左側が衿の付くネック部分、右側がAHとなる部分、そしてこの肩線の長さが肩幅を決めていると言えます。















is3.jpg


・・・・・その前身頃肩部に後身頃(手前側)の肩部を乗せてみました。

後側の肩縫い目は 予め縫上がり線(前の肩線で言う白チャコ線)で畳んでいます。

これら前後肩の縫い上がり線である 白チャコ線同士(縫い上がり線)を結合し肩縫い目となります。
ネック部分を互いに合わせると、AHの所では後肩線が長くなっているのが分かります。
全然距離が違いますね!


この長い分だけ、前肩に合わせて縫い縮める(イセる)のです。












is4.jpg


・・・・・肩線という距離に対し、エンドはネックの線との交点、AH線との交点となる事を先程述べました。

それぞれを前後肩線の各交点で合わせると 当然ながら 距離の長い後肩線は浮いてしまいますね。

その浮き分を更に等分で止めてあります。


肩のイセ分量、これはハンドメイドの服と、大量生産される既製服とではイセ込む量が全然違います。

 イセの量が多くなれば成る程 処理や『こなし』も難しくなるという事です。
そして、それらは立体度合にも大きく影響するという事になります。



ジャケットで大体2pのイセを入れていますが、人によって量は変わりますし、肩甲骨の隆起が大きい方は そのイセ量の配分を等分では無く、隆起TOP付近に多く入る様に分配も致します。


手縫いであれば3pのイセ量でも技術により入れ込む事は全然難し事ではありません。
しかし、沢山あれば良いという訳でもありません。 厳密に見れば、人それぞれに必要な量が違うという事になります。

 今回の様にコートであれば、インナーであるジャケットに伴っていれば良い訳です。
イセ量や配分なども既にインナーで判断されているからです。












is5.jpg


・・・・・では、この浮いたイセ量を強制的に縫い縮めて参りましょう!
細かく過剰量(イセ量)を分散させながら丁寧にチクチクと地縫いして参ります。

is6.jpg














is7.jpg


・・・・・縫い終わりました。
これで肩縫い目が出来た訳です。 写真奥側が前身頃、手前側が後身頃です。
縫い縮めた後側の肩は強制的に縮められたので波を打っているのが見てとれます。

 同時に、縫い込まれた側である 前身頃の肩線は、この時点で強制的に与えられたイセ量に耐え切れず 距離が多少伸びてしまっています。














is8.jpg


・・・・・次に肩線の縫代を割って処理致します。(イセを殺し込みます。)

鉄万という部分アイロン台に肩線を乗せました。
奥側が前身頃、白っぽく見えているのは毛芯です。

手前側が後身頃、更に手前には背裏地が見えますね。
 それぞれ肩周りの処理が出来る様 捲られるように据えられています。













is9.jpg


・・・・・縫い目含め、必要な個所に水を付けてジュ〜〜っと縫代を割ります。
この時、イセ量に耐え切れなく伸びてしまった肩縫い目、この伸びたであろう距離を元に戻す様にアイロンを当てます。

そして、発生したユトリ(波打ち)も馴染む様に、かつ波打ちが畳まれたりしない様にアイロンを手前方向へ動かして殺し込むのですが、殺し込むのは肩甲骨のTOP位置までです!




 ピカピカなアイロンに映り込む間抜けな私には気付かぬフリをしておいて下さい(笑)!













is10.jpg


・・・・・はい、サッパリと処理出来ました。
あれだけ波打っていた分量は殺し込まれて綺麗に内蔵された事になります。

こうなると、意図的に多く入れた分量なんて全く分かりませんね!


今回の様にイセ分量が 2pレベルでも、お安い既製品スーツの上着等はミリ単位(1p以下)だとしても 技術者でなければ完成した服を見て区別などつかないでしょう。







 今回のカバートクロスは楽に処理出来る生地の部類です。
ざっと同じ工程を違う生地で見てみましょう。

春夏用のウールトロピカルです。
春夏用の生地は往々にして入れ辛い生地が多いのも事実です。


同じ様なイセ分量でも、波打ち具合は大きく過剰に見えますよね。

is11.jpg



is12.jpg



is13.jpg















・・・・・袖のAHにも同じ事が言えます。
縫い縮める為 袖AHにギャザーを寄せ、それを殺し込んでフラットにさせてから袖付けをすれば 極一般的に見受けられる袖付けになります。

 皆様のご存知の雨振り袖は、かなり簡単に言えば イセ込みを殺さずに付けているから雨が降っていると言えますね。 分かり易く言えば ギャザー袖という部類に近いです。
 ただし、AHのイセ込みは必ず必要なので、そのイセを殺すか殺さないかだけであり 双方には必ず入れ込まれています。




今週の工程は肩の地縫い、及び縫代処理に伴う殺し込みという事になりますが
重要なのは『肩据え』であり、肩全体の作り込みに対し 今回入れたイセ込みを有効的な処理と共に成形出来なければ意味がありません。
(それがイセ込みを、イセ分量をこなすという事です。)












is14.jpg


・・・これら肩地縫いは、勿論ミシン地縫いでも構いません。
しかし、イセ量が2pレベルともなれば 手縫いで入れた方が早く、且つ綺麗に分散出来き、処理出来ると言えます。

ミシンで行う場合は、後肩の長い方を ある程度予め 短い前肩長まで縮めてからでなければ縫えません。


 イセ量を生かす前肩成形、表地のイセ量に伴う様に裏地の肩にもイセ分量が必要です。
裏地側は表側より更に多くなければ成りません。

 お安く大量生産される上着のイセ量が少ない事もお分りになるでしょう。






 肩周りは複雑であり、とても難しい個所です。
だからこそ、高度な技術により手間暇をかけて立体成型した肩作りの服は とても着ていて楽であり、綺麗であり、動きやすくもあるのです。

本当に大きな差が出る部分です。



is15.jpg



 肩作りからしてみれば、今回の工程は一部であり、
イセの量が多いから良い服という訳でもありません。しかし、少なくても困ります。

総合的な処理が有効的に、適切に処理・成形されてこそ 仕立て良き筋の通った服となるのです。

















・・・・・如何でしょうか。
完成してしまえば、後ろの肩線が前肩線より約2pも大きく それが縫い込まれているなんて分かりませんよね。 両肩で捉えれば、背中に約4pの『幅』が入れ込まれている事になります。

 紳士服とは そんな目に見えない技術の集結でもあり、あるべき姿であるハンドメイドとなります。
それをBESPOKEと括るなれば、HOUSE STYLE ORDER は工場さんの技術力を頼りに どこまであるべき姿まで進化・具現化出来るかどうか、、、これがH.S ORDERのテーマでもある訳です。




is16.jpg


 こんなに沢山の技術が詰まった誂え紳士服、各工程にはそれぞれのストーリーがあります。
全てを高次元でまとめあげ、筋の通った説得力高きスーツを仕立てるには
相応の時間と技術が必要です。


 高額な物には高額になる理由が必ずあるのではないでしょうか。



一人でも多くの皆様に筋の通った説得力高きクラシックなテーラードに袖を通して頂けましたら 何よりの幸いです。

















・・・・・いよいよ11月です。
皆様よりご注文頂きました BESPOKE GLOVES ですが、そろそろ届く頃です。
 現在 先方様へ確認中で御座います。

上がり次第、皆様へ個別に御連絡させて頂きますので 今暫しお待ち下さいませ。

 また、この秋冬デビューが遅れておりました 弊店オリジナルのネクタイに付きまして
現在 職人さん方が急ピッチで仕立ててくれております。

11月上旬には仕立て上がって参ります。
 早ければ来週のBLOGで御紹介出来るかも知れません!

どうかこちらの新作タイの方も 合わせて宜しくお願い申し上げます。














・・・・・手前事で恐縮では御座いますが、
先月の 10月28日をもちまして Bespoke Tailor Dittos は 本当に皆様のお陰様により 7歳となる事が出来ました。

既に8年目を迎え、つくづく時間の経過を早く感じると共に
弊店の様な小さな個人経営店がここまで存続出来た事は、全てにおいて皆様のお蔭に他なりません。

 本当に多くの御贔屓下さる顧客様方、そして御協力下さる工場さん、生地屋さんを始め全ての取引先様、
そして心底信頼する愛弟子達に加え、家族の支えも勿論御座います。

皆様 本当に心からの感謝をしております。
 言葉だけでは軽々しくはありますが、誠に、誠に有難う御座います。


どうかこれからも変わらぬ御指導、御鞭撻の程 頂戴出来ましたら幸いで御座います。

日々皆様のご期待にお応え出来ます様 益々の精進をもってお礼に変えさせて頂きたいと思います。


 どうも有難う御座いました。








 I様、プレゼントまで、、、、、大変恐縮ながら 有難う御座いました。
28日まで待って、当日に美味しく頂きました!! 







posted by 水落 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック