こんにちは。
なかなか好天に恵まれたゴールデンウィークも終わりました。
晴れれば日中は暑く、各地で既に30度を超えた所もありました。
もっとゆっくりと心地良き春を堪能したいですよね。

そろそろ芍薬もシーズンです。
ピンポン玉より一回り小さなつぼみ達、綺麗で大きな花が開くのを楽しみにしています。
さて、今週は久し振りにお勉強の時間と参りましょう。
何度もお伝えして参りましたが、紳士服は歴史です。
今回は 私の大好きなウエストコートに付いて、あるモデルにクローズアップして掘り下げてみましょう。
ベスト
( = 胴着・・・下着と上着の間に着る中衣 )
『 17世紀後半以来の紳士服は、上着、長袖のベスト、キュロット、そしてクラヴァットから構成されていた。
18世紀に入ると上着が細身に成り、ルイ15世の時代にはベストの袖が無くなった。
この袖の無いベストがウエストコート(仏ではジレ)と呼ばれる様になりました。 』
(Wikipediaより)
専門学生の頃に受けていた服装史の授業を思い出します、、、。
かなり昔のベストなる中衣は袖があったのです。
この袖が無くなり、皆様もイメージされる様な所謂ベスト(ウエストコート)なる形態へと変化して参りました。
WAISTCOAT
・・・・・『 20世紀の最初の10年間に見られたウエストコートは、ハッキリとそれが郵便配達夫(POST BOY)から由来する事を示している。 』
(エスカイヤ版20世紀 メンズファッション百科事典より)
・・・・・『 元来は、イギリスの郵便配達人(POST BOY)が防寒用に着用した 厚手羅紗の長チョッキを指しており、その登場は 1790年代のロンドンであった。
このスタイルを模したチョッキが後にファッションとして登場し、ポストボーイ・ウエストコートの名で広く知られる様になる。
特に1890年代以降は イギリス本国でよりもアメリカ東部で好んで着られる様になり、主として1930年代の終わり頃まで着用されたと伝えられている。 』
(男の服飾事典:堀 洋一先生の著書より)
上記から分かる様に、20世紀以降 ウエストコートの生い立ちは このポストボーイ型ウエストコートを抜きには語れないのです。
歴史の中で、ある程度の様変わりをしながらも
それなりの形態を保って生きながらえたスタイルあるデザインであったと言えるでしょう。
では、実際にどんな感じなのか見てみましょう。

・・・・・1930年代のエスカイヤに掲載された F.フェローズ氏のイラストです。
黄色い ODD WAISTCOAT がとても良く映えます。

・・・・・同じ頃、L.サルバーグ氏のイラストでも登場しています。
左の紳士、ツィードのスポーツスーツに やはり黄色の ODD WAISTCOAT を着用しています。
双方 全く同じモデルを目指して書いているのが分かります。
これが【 POSTBOY WAISTCOAT 】となります。
私は個人的に このポストボーイ型がたまらなく好きで、若い頃は早く仕立てられる様になって『着たい!』と思っていたものです。

・・・・・今では着用出来るようになりましたので 喜んで着ております!
ツィードのスポーツスーツに、タッターソール柄のポストボーイ・ウエストコートになります。
・・・・・では、具体的に掘り下げてみましょう。

2008年製(私物)
英国:Fisherより、630gのキャバルリーツイルです。
写真では色が上手く出ていませんが、冒頭のイラストと同じ様に黄色です。
もう9年選手ですが、生地が生地なだけに 全くヘタレませんね。
もっと前に仕立てたものは納得度が低く、体系的な変化もありお蔵入りです(汗)。
『 デザイン的な特徴として、先ずはノッチドラペルが中心であるが、時には衿無しのものもある。
前は必ずシングル5釦・5掛けであり、最下位の釦に並行して切り替え用の縫い目が施され、その縫い目に沿って角型の大きなフラップ付ポケットがあしらわれる。 』
『 ウエストの縫い目から下には通常角のある(または角の無い小丸形) 約16p程度の短いスカート(裳裾)が付けられている。 』
( 同じく 男の服飾事典より )
数値をもって具体的に記載はされていますが
クライアントのサイズ的な観点や好み含め、TAILORが違えば ある程度はバリエーションやディテール的な違い等もあった事でしょう。
昔の重衣料をイメージ出来る方はされてみて下さい。
フロックコートやモーニングコートなど、昔の服は この様なウエストシームが入っていた事は大きな特徴と言えます。
生まれた頃の時代的なカットを考えると、今では珍しく見えるウエストシームというデザインも、当時では全く珍しくはありません。
その部分が大きな特徴として残っているのかも知れませんね。

・・・・・『 着丈は通常のものよりは長くカットされ、脇には深いスリットが切ってあり、オリジナルのそれには 背中にも表地同様に紡毛地が使われていた。 』
(男の服飾事典より)
私のコレもそうですし、冒頭のイラストで描かれた時代辺りになると、インナー用に特化したものなので 背中は裏地を使用します。
これは 今ではあまり見られなくなったアルパカ裏地です。
丈も長いので、アジャスターはサイドに付けてみました。
(アジャスターはお好みですね。)
通常タイプと比べると、ベルトの付く位置も必然と高くなると言いますか、、、ベルト位置はあまり変わらず、その下にまだ着丈が伸びていると言った方が正しいでしょう。
脇には、レギュラータイプのそれよりも当然長いスリットが切ってあります。

・・・・・ウエストコート、名の如く本来はウエストの位置あたりで丈が設定されています。
ウエストシームが大体それ位にあたり、そのシームから下へスカートが付く分が長めの丈設定バランスであるという感じに捉えてみて下さい。

シームを利用し、ホールやポケットを作るだけでは無く、
ウエストの括れから腰へのフレアーと丸みを出す様に裁断(型紙)されています。
単に縫い目(切り替え線)だけではありません。

・・・・・ある程度 古くからのサビルロー等の仕立てにおいても、ウエストコートの衿は 大抵 衿(ラペル)のみを作り、後で身頃に合体するといった手法をとります。
それには幾つか理由もありますが、その作り方でなければ仕立てられないデザインも中にはあります。
コレは敢えてハ刺しを施した本返り衿の仕立てにしています。
そして、このウエストコートのポジションも踏まえ ウエルトステッチはミシンを使用しています。
よりスポーティーであり、剛健さが出ているのが分かりますね。
・・・・・多くの方々がイメージされるベストは、大前提として袖無しが基本であると思われていたと思います。
しかし、冒頭でも御説明した様に 昔は袖付きのベストも御座いました。
そうなると ベストたる定義は袖無しでは無いとも言えますね。
細かくなりますが、それはウエストコートとしての定義という事になります。

そもそも防寒具として着用された原型であるポストボーイ ウエストコートは、後身頃にも裏地では無く 前身頃と同じ共生地を使用していました。
インナーに特化するのであれば、背中は裏地が理想的ですし、衿も肩までで止めます。
しかし、背中まで共地を用いるのであれば 衿も後ろまでグルリとジャケットの様に付けるのが素直とも言えるでしょう。
・・・・・巷では随分と三つ揃いでスーツを着用される方も見受けられる様になり、一時期よりは認知された事と思います。
先にも触れましたが、ウエストコートの丈は基本的にウエスト辺りで設定されますが
これは深き股上で仕立てられた吊り用のトラウザースに合わせてこそのバランスであり、中下の調和が大変重要となります。
(本来ウエストコートというものは、その様にデザインされ 設計されているものです。)
既製服であれば その調和を保つ事はかなり困難です。
それら多くのウエストコート付きのスーツは、そもそも吊り用では無いトラウザース(パンツ)が殆どであり、股上が浅い為にウエストコートの裾からベルトやらトラウザースの帯、そしてシャツまで顔を出して着用される方々も多く見受けられます。
設計不備もあるでしょうし、体形やサイズ的に適合していないという側面もあるでしょう。
しかし、これは本来であれば絶対にナンセンスです。
では、諸々見えては成らぬものを隠す為にはどうしましょう、、、。、
(ベルト用を尊重するのであれば)パンツの浅い股上に合わせてウエストコートの丈を長くするしかありません。
ですが、それでは間延びした胴長で細長いベストになってしまい 格好悪さ極まりないですね。
そうです、本来あるべきバランスで構成(デザイン)出来ないのです。
トラウザースの仕様もそうですし、ウエストコートというアイテムは既製服として展開するには それだけ難しいのです。
・・・・・では、次に その重要な丈バランスについて着目してみましょう。

2007年製(私物)
SPENCE BRYSON
IRISH LINEN のウエストコート、これは2代目になります。
2代目も既に10年選手になりました。
アイボリーのリネンWCはかなり重宝出来るアイテムであり、私にとっては不可欠なものです。
是非ワードローブに加えておくべきアイテムであるとお勧め致します。
このウエストコートは、三つ揃いのスーツで仕立てられるウエストコートとバランスは全く同じであり、これをレギュラーと致しましょう。
シングル 6釦・5掛け 衿無しの極ベーシックなスタイルです。

・・・・・リネンのウエストコートに ポストボーイを重ね着してみました。
比べるのですから設計バランスが同一人物の服同士である必要があります。
着丈が随分と違うのがお分り頂けるでしょう。
誂えであれば、勿論 好みや個人的なバランスも有りますので如何様にも出来る事になりますね。

・・・・・逆重ね着してみました。
丈の違いは一目瞭然です!
さて、ここで 私が今回 何をお伝えしたいのでしょうか。
この POSTBOY WAISTCOAT が単純に格好良く 好きである為に 皆様へ御紹介させて頂きたく、そしてお勧めさせて頂きたいSTYLEの一つであるという事で御座います。
そして もう一つ、
この丈バランスだからこそ、ベルト用やベルトレスなどの股上浅きトラウザースにも合わせて着用が出来るのです。
ポストボーイは、そういう意味ではトラウザースを選ばず 兼用出来る事も大いなる特徴であり、メリットなのです。
着丈を単純に伸ばして間延びしたバランスでななく、ウエストシームが入り
しっかりと上下で調和と意味のあるデザインやバランスを形成しています。
そもそも生まれは古き歴史あるスタイルです。
存在感と説得力も持ち合わせたウエストコートであります。
このポストボーイであれば、お手持ちのベルトレス トラウザースとも合わせる事が出来、かつ全体感も調和が取れてバランス良く着用出来るのです。
勿論吊り用のトラウザースに合せる事は当たり前であり、極普通の行為ですね。
・・・・・如何でしょうか。
吊り用と吊らないトラウザースの股上さとは
本来ここまでに大きな違いがあるという事です。
丈バランスを気にせず(トラウザースの仕様を気にせず)着用出来る 夢の様なウエストコートですね! そんな大げさなものではないのですが(笑)。
では、最後に折角ですから堀先生の著書を最後まで御紹介しましょう。
『 生地はタッターソールチェックやフランネル、黄色や深緑などの色無地(BOXCLOTH)などで仕立てられ、フロントの釦には狩猟に因んだモチーフ(例えば狐の頭や鷹のシルエット)等を彫り込んだメタル釦なども しばしば使われた。
要約すれば、前身頃が極端に長い、腰縫い目入りの、衿付シングル5釦型のスポーツウエストコートというのが このポストボーイ型のアウトラインである。 』
(男の服飾事典より)
これら形態のODD WAISTCOATは、大枠で捉えれば HUNT(HUNTING) WAISTCOAT とも呼ばれています。
呼称、、、これこそ時代や国により違いが多く、大変難しいです。
日本では和製英語含め、更に入り混じっているので更に大変ですね。

今回の POSTBOY WAISTCOAT に少しはご興味を持って頂けたでしょうか。
改めて冒頭の素晴らしい御二方のイラストをご覧頂ければと思います!
次回はもう少し仕立てと共に このスタイルをもっと楽しく気軽に楽しめる様な続きを書きたいと思っております。
その時は また宜しくお願い致します。
今週もお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。

