皆様 こんにちは。
今年の冬はコロコロと安定せぬ異例尽くしです。
2月も後半に入り 洋服業界は既に春夏へシフトしております。
当店も春夏用へと生地の入れ替え含め衣替えを致しております。
今年はオリンピックイヤーでもありますが、夏はどうなるでしょうか。

・・・・・1937年に撮影された写真です。
現代における日中の第一級正装であるモーニング・ドレス。(モーニングコート、カットアウェイ・フロック)
皆様が一般的にイメージされるスタイルではブラックの上着に コードストライプの縞柄トラウザースを合わせます。
まだモーニングが普段着でもあった時代では、ビジネススタイルからカントリースタイルまで様々な生地(ツィード等も)を使い バリエーションに富んだモーニングスタイルがありました。フロントの釦も一つに限りません。
現代でも辛うじて存続しているスタイルに モーニングスーツ (アスコットモーニングとも)があり、主にアスコット競馬場での正礼装となっております。
写真の様に明るめのグレーで誂えられたスーツです。
勿論フォーマルなスタイルですし、トラウザースの裾上げは必ずシングルとなります。
写真に向かって左側の紳士の裾上げ傾斜をご覧下さい。
モーニングカットとも呼ばれる傾斜を付けた裾上げですが、かなり意図的でエグイ角度にて上げられているのが見受けられますね。
これらは軍服などにも見受けられますが、ここまでの傾斜を付けるには それなりのテクニックが必要でもあり、BESPOKEのステージであればいくらでもご要望通りに仕上げる事が出来ます。
その傾斜の付いた裾口は直線だけでは無く、カーブ線での上げ方もあり、前後差が大きくなればなる程にカーブ線の方が良いですね。
スーツとして三つ揃いでも、フォーマルなオッド・ウエストコートを合されても素敵です。
では、現代での正統的なロイヤルスタイルのモーニングスーツもご覧頂きましょう。

・・・・・御結婚式へ参列された時のマイケル王子御夫妻。
衿腰高きシャツと、ネクタイはボリュームたっぷりの結び方がアイコンでもありますね。

・・・・・アスコット競馬場にて。
とても良く晴れた日に見えますが、傘をお持ちですね。
英国紳士にとっての傘というところでもあり、ステッキ代わりにも。
英国では様々な仕込み傘なども御座いますが、腰掛になる傘なども御座います。
さて、今週は大変御贔屓を頂いておりますN様より
モーニングスーツのご注文を頂戴致しましたので御紹介させて頂きたいと思います。

・・・・・モーニングのご注文頻度は低いので 折角ですからいつもと別の場所でも撮ってみました!
光沢感のあるライトグレーのモーニングドレスは、キッドモヘアが主体となる混紡生地であり 春夏用としてのご注文となります。

・・・・・確固たる御自身のスタイルを確立されてられるN様におかれまして、モーニングドレスの御着用頻度はベーシックなラウンジスーツと比べれば そこまで高くは無い事と思われます。
だからこそ、今回の春夏用生地で盛夏も踏まえた三つ揃いのスーツに モーニングドレスを加えた 計4P-SUITS としてご注文を頂戴致しました。
これでスーツとして幅広くご活用頂ける事になります。
ウエストコートはショールカラーのダブルブレストを、バックレスのスタイルにてリクエスト頂きました。

・・・・・上着はシングル・ブレストの一つ釦、ピークドラペルのドレッシーなデザインであり、N様の個性が表現されたバランスで御座います。
腰ポケットのフラップさえ排除された とてもエレガントな仕様です。
トラウザースの裾上げは勿論シングルですが、冒頭の写真レベルまではあえて傾斜を付けておりません。
当店でのレギュラーでは、シングルでもダブルでも 前後差:3p で統一しておりますが、御希望であれば4pでも5pでもリクエスト頂ければと思います。

・・・・・いよいよモーニングドレスも組み上がり、いざ仮縫いです。


・・・・・モーニングドレスにはウエストシームが入り、深いセンターベントは『フックベント』となります。
仕立てる際に切込みも必要となる為、仮縫いではベーシックなセンターベントで組み上げます。

・・・・・モーニングコート
コートと言ってもオーバーコートではありませんね。
サイジングはあくまでもベーシックなスーツの上着に同じです。

・・・・・さぁ、お仕立て上がりで御座います。
このバックレス・スタイルのウエストコートですが、上着を脱がなければ誰もバックレスとは気付けません。
とても涼しきスタイルでもある為、春夏でも三つ揃いを御愛用される方におかれましては重宝出来る仕様でも御座います。

・・・・・もう一つ、独特なメリットがあります。
それは中胴サイズが有って無い様なものである事、背ベルトでのご調節次第という事になります。
3サイズが多少の増減をされたとしても、背ベルト次第で補えますね。

・・・・・キッドモヘアの光沢感はドレッシーに映え、ハリやコシは綺麗に丸味を生み出します。
上着が一つ釦ですので自ずと Vゾーンは深くなります。
インナーのダブルで仕上げたウエストコートが素敵です。

・・・・・モーニングスーツとしての御着用です。
一般的なブラックのモーニングは、フォーマル地としてバラシアやドスキン、そしてミニヘリンボーン柄などは王道です。
アスコットモーニングはピック&ピック(シャークスキン)がメジャーとなります。
しかし、これら装いも当然春夏用としてのフォーマルシーンもありますので、その場合は やはりモヘアを混紡された生地が主体となって参ります。
通常の秋冬用のウーステッドと違い、個性の強いキッドモヘア系の生地は地も薄く、融通性も低い為 見越したテクニックが必要となります。
N様、、、、本当にエレガントで素敵です。
英国滞在時に御着用との事であり、御機会の折に是非デビューされて下さいませ。

・・・・・背中には必ず付けられる2つの釦、これは歴史上でのモーニング誕生に端を発する大切なディテールです。(今回は長くなるので割愛致します。)
センターベントはフックベントに!
腰のくびれからお尻のボリュームへと立体的な曲線が身体を包みます。
・・・・・本来モーニングコートでのスタイルは、帽子(トップハット)とグローブにて完結致します。
昔のビジネスモーニングなどは腰ポケットが付けられたりもしていましたが、基本的に この確立されたモーニングドレスのスタイルには腰ポケットがありませんね。
では、グローブ含めちょっとした物を仕舞いたい場合はどうしましょう。

実は後側に隠しポケットがあしらわれているのです。
内側である裏地に付けるお店(TAILOR)もありますし、そもそも省略してしまった老舗TAILORさえ御座います。
昔ながらに背釦は付けるにも拘らず、モーニングを着用される歴史的・スタイル的な前提に立てばやはりお付けしたいところでは御座いますが、無いと単純に不便だとも思います!
TAILORは仕立てのテクニックだけでは無く、着用されるスタイルや背景、歴史も踏まえ多大なる学びと理解が不可欠必という事でもあり それらが些細ながらも仕立てられた服への説得力へと繋がればと願っております。

・・・・・ウエストシームは大いなる特徴です。
ここで上下分断されている訳ですが、実はシェイプのライン自体がウエストシームでは無いのです。
貸衣裳のモーニングから、一応既製服としてのモーニング、ほぼシェイプの無いモーニングなどもあり それはもう色々とある訳ですが、、、本来ではそのシームより上に製図設定上のウエストラインがあり、シェイプされる位置となります。
更に言えば、語弊があるかも知れませんが、昔の男性は女性の様に見えない所でパッド等を内蔵して肉盛りし、よりメリハリの効いたスタイルを作り出していた歴史があります。
モーニングコートもそれに漏れず、昔は腰パッドも内蔵され より顕著なシルエットを作り出してもいました。

・・・・・背中の写真ですが、テールコートの類では 通常のジャケット(コート)には無い『細腹』が御座います。
縫目は通常『割り始末』と言って縫代を両側に倒しますが、ハリやコシ、そして反発力の強いモヘア系の生地では、各縫代を片側に倒し ハンドステッチで押さえるのが一般的な始末となります。
その細腹のシームは、袖のアウトシームへと繋がります。

・・・・・英国のパブリックスクールである名門イートン校では、モーニングコートが制服であり 街中にはモーニングを着た学生さん達が日常体に見受けられる訳です。
日本では堅苦しくもあるとみられるモーニングスタイル自体を、N様はもう少し身近なスタイルとして御着用されたいとの趣旨に対し ポジション的にもバランスの良いモーニングスーツに成られたのではないでしょうか。
いつかは自分にも仕立てたいモーニングコート、、、
その時はどんな風に料理にするか考えるだけでも楽しいものです!
N様、この度も素敵な御注文を頂まして 誠に有難う御座いました。

では、いよいよ本格的に春夏へシフトで御座います。
まだまだ寒いもある事と思いますが、春夏の装いを妄想しつつ是非お気軽にお越し頂けましたら幸いです。
皆様のお越しを心よりお待ち申し上げております。
私の既製のモーニングはテールにプリーツがありますが、ポケットが無い時はそれを付けるのですか?あとなぜプリーツがあるのでしょうか?
よろしくお願いいたします