
5月も半ばを迎え、そろそろカンカン帽も似合う季節になって参りました。
外出がままならぬ状況下、ご体調など崩されてはおりませんでしょうか。
一日でも早く平穏な日々が戻るよう願いばかりです。
今週は 先週にも登場させて頂きました BACKLESS WAISTCOAT につきまして、歴史や背景などを交えてお話をさせて頂きたいと思います。

・・・・・イブニング・フォーマルの正礼装であるテールコートに合せるべき
ピケ等で誂えられたイブニングドレス・ウエストコート。
クラシックな前後身頃から構成されたスタイルだけでは無く、仕様のバリエーションとして今回のお題目であるバックレス・スタイルは多く愛用されて参りました。
ご覧の様に かの名店でも素敵な広告が残っています。

・・・・・リアルな VINTAGE CLOTHING のバックレス・スタイルです。
本来では皆様がご存知の様に、前身頃と後身頃で構成される中衣が一般的なウエストコートです。
まだ暖房設備が現代の様に整っていなかった時代、下着であるシャツと上着の間に入る中衣が及ぼす役割は大きく、温かさと共に ブレイシーズやトラウザースの腰帯、シャツとトラウザースとの分断線を隠すなどの役割も担っています。
http://dittos.seesaa.net/article/464675692.html
【 DINNER JACKETA 】
中衣に付き、こちらも合わせてご覧頂ければと思います。

・・・・・英国の古き裁断書でも クラシックなウエストコートと共に、バックレス・スタイルも当たり前に掲載されています。
背中が排除され、首元で吊るしつつ 胸掛けの様に覆った上で 脇から腰に回したベルトなどで装着されます。
このスタイルは1930年代のファッションには欠かせぬ仕様となり、英国貴族を始め、ハリウッドスター等にも愛用され 大きなトレンドとなりました。
この仕様に関する誕生は極シンプル かつ単純であり、夏場での結婚式や各種フォーマルシーン、そしてダンス等をする際に少しでも快適に涼しく、、、という事で考案されました。
・・・・・この仕様を語る際、欠かせぬ名店の存在があります。
1913年創業 Hawes & Curtis
ロンドンのピカデリーアーケードに第一号店を開いた仕立屋(洋品店)となります。
ウインザー公爵、ケイリ―グランドやクラークゲーブル、ビンククロスビー、フランクスナトラ、そしてフレッドアステアまで名立たる名士が顧客であり、ウインザー公からはロイヤルワラントも授かっております。
( 因みにウインザー公との関わりは深く ウインザーノットに見合うタイ、そしてその結びに見合うワイドカラーのシャツ等も共に作り上げてきたそうです。)
1920年代、創設者でもある GF Curtis氏がロンドンのボールルーム(舞踏室)にて非常に暑い日に踊っていた際、バックレスの仕様を半ば偶然に思いつき 考案されたとの歴史があります。
これはウインザー公も大層お気に召された様であり、何着も誂えています。
イブニングドレス・ウエストコートは基本白ですし汚れも目立ちます。
汗もかくでしょうし、シャンパンを零すかも知れません。
替え分も沢山用意されていたようですね。
公を含め、沢山の貴族に愛用された革新的なバックレス・スタイルをハリウッドスターも見逃しません。
当時 トレンドセッターであったウインザー公に憧れたフレッドアステアは同店を訪ねますが、貴族からの注文過多の為と一度は断られた事もあったそうですが、、、その後は顧客として名を連ねる事になります。
後にはアメリカでも急速に支持を得た事は言うまでもありません。
2002年に経営者が変わり 随分と大きな拡大を成し遂げる事となりますが、その分 往年の面影は随分と薄れてしまったようにも感じられます。

・・・・・1930年 VINTAGE:MOSS BROTHERS製
同社は今でも現存し、主にフォーマルを主軸とした貸衣裳店となっています。
バックレス・スタイルの支持は大きく、イブニングドレス用に限らず、デイ・フォーマルのモーニングコートに合せるウエストコートなども含め 様々に広がりを見せます。
写真の様に 極プレーンな シングル型:6釦、良く見ればグレンチェックですね。
この仕様は誂えだけでは無く、後には既製品としての展開もあり
ネックの帯は釦留めで 留める釦位置をズラす事により長さを変えられる様な構造を持つ古着も見受けられます。
もともと腰回りはベルト状であり、それなりのサイズにアジャストする事が出来ますが、簡易な物は平ゴムタイプまで!?

・・・・・こちらもVINTAGEであり、フロント6釦:全掛け仕様ですね。
一番下を外して着用される様になり、今では その一番下の釦は配列から外した位置に設計されています。
原型タイプのデザインである事が分かりますね。
上着でいう PADDOCK CUT にかなり酷似しています。
昔は2釦モデルでは全掛け、現行クラシックでは 下の釦は飾りであり、止められる位置に配列されません。
http://dittos.seesaa.net/article/418036041.html
【 PADDOCK CUT@ 】
如何でしたでしょうか。
この様に紳士服は正に歴史であり、大抵の事は偉大な先人達により様々に考案され、仕様含めたデザインの流れと共に歴史を探る事が出来ます。
これが 紳士服におけるリアルクロージングの源流たる BRITISH STYLE なのです。
バックレス・スタイルの背景やイメージが湧いてきましたでしょうか。
これを採用し、大真面目でバカ丁寧に仕立てた当店なりの BACKLESS WAISTCOAT をご覧頂きましょう。

・・・・・極ベーシックなシングル型 6釦-5掛けスタイルです。
上着を着用していればバックレスとは全く分かりません。

・・・・・一見、、、、、凧!? 蛸!? のようでもありますね。

・・・・・ネックに引っ掛け 前掛けとし、背中のベルトでホールドします。
大きくえぐられたアームホール、最早アームホールとは言えないですね。
身体が覆われる面積は圧倒的に小さく、軽くて涼しい、そして動きやすい!
フィット感は背ベルトの調節で賄える為、多少の体型変化にも安易に対応出来る事になります。
確かにダンスという運動なども考えれば、涼しくて機能的な要素は嬉しい限りであり 流行る事も頷けるというものです。

・・・・・ネック周りは綺麗にシャツのカラーをホールドしたい、させたいところ。
共地によるミツ布は引き続き採用し、インナーでもある中衣としての安定感、そして薄くフラットに身体に吸い付く様に仕立ててあります。

・・・・・バックレス、ご覧の様に後身頃がありません。
ネック部と背ベルトだけですね。

・・・・・これを着用してみると、当然ながらこうなります!
これは決して美しくなく、基本的には上着を脱がない前提であるという事も念頭において下さい。
勿論脱いでも良いですし、私はあまり気にしませんが こうなります!
ブレイシーズは丸見えであり、前から見ても露出は このデザイン上避けられません。
ブレイシーズはシャツ色に合わせて同化させるか、最早見せるべく色や柄のデザインを楽しむ方が潔いでしょう。
トラウザースの尻尾錠は好きなディテールなのですが、この組み合わせだと少々うるさく見えますね、、、、。
では、顧客様方の素敵なスタイルもご覧頂ければと思います。

・・・・・S様の春夏用スーツは キッドモヘアを主体とする3者混の生地です。
白シャツにブレイシーズがシルバー、これであればあまり目立ちませんね!

・・・・・同じくS様のブラックスーツです。
ダブル型の衿付きであり、とてもエレガントです。


・・・・・N様の SUPER BRIO による三つ揃い。
ダブル型の裾剣付きデザインであり、ショールカラーとなります。
爽やかで如何にも涼しげです。
・・・・・世界的なカジュアル化が進む昨今、そうはいっても以前と比べれば巷でも随分と三つ揃いが認知された事と思います。
スーツとは本来では三つ揃いがあるべき姿でもあり、中衣を割愛してしまった2Pのスーツは その時点で略式となります。
ウエストコートが当たり前の時代だからこそ、様々な工夫が多くの軌跡を残してきました。
春夏であろうと三つ揃いを嗜まれる紳士方は是非お試しに成られてみては如何でしょうか。
では 最後に凄いのをご覧頂きましょう!

・・・・・Adjustable Brace Attchment Waistcoat
バックレスな仕様は勿論の事、更にトラウザースを吊り上げるべく ブレイシーズも兼用された発展バージョンです!
これは、、、誂えでなければトラウザースとの連動性がままなりませんね。
フロント側には5つの釦ホールがかがられたタブが付き、これをそのままトラウザースのブレイシーズ用釦に4つ留めます。
センターにもう一つタブが余りますが、これはソレ用に位置を合わせてトラウザースに釦が付けられたのでしょう。
ネック部の下部には釦留めで 多少サイズ調整機能の付いた取り外し式の吊りが付けられます。
取り外し式なのは洗濯への考慮や、替え用の同ウエストコートに対し、この吊りパーツ自体を兼用でも使えるとの事でしょう。
利点として、一石二鳥の仕様であると共に、トラウザースに確りと固定もされる為
正にツナギの様にもなりますね。
それぞれのアイテムが別々に動く事、ズレる事無く常にピッタリと寄り添い固定されている事にもなる訳です。
また、ブレイシーズ自体を使用しない為、ブレイシーズの露出!? という観点で見れば一体式ですから不自然さがありません。
凄いですね、、、個人的にはデメリット含めやり過ぎ感もありますが、それだけ多くのTAILORがあり、技術者が切磋琢磨していたとも言える訳です。
・・・・・既製服化と共に大量生産のもとによる効率化ふまえ
失ってきてしまった事、物、そして技術は計り知れません。
素晴らしきクライアントの方々、そしてその顧客様方を支えてきた技術者たる先人達に敬意を払いつつ、皆様にも御紹介させて頂きながらご堪能して頂ければと思っております。
源流たる英国での紳士服の世界は本当に深く、魅力に満ち溢れています。
洋服好きな顧客様と共に、より快適で充実した『衣』をご提供出来る様 引き続き精進して参ります。
何卒宜しくお願い申し上げます。
( 現在 このバックレス仕様は BESPOKE でのご注文のみとなります。ご要望が高ければ HOUSE STYLE ORDER での展開も考えますので、お気軽にご意見をお聞かせ頂けましたら幸いです。)
・・・・・誠に恐縮ながら、来週のBLOG更新はお休みとさせて頂きます。
次回は、5月26日(火)の予定となります。
どうか引き続き宜しくお願い致します。
今週も最後までお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。

