2023年08月08日

【 GRENADINE TIE を求めて 】





 皆様 こんにちは。
明日には『立秋』を迎え、暦の上では秋となります。
今週の天候こそ不安定ですが、残暑が長引かぬよう願うばかりです。








 さて、表題にある GRENADINE TIE というネクタイを御存じでしょうか。
グレナディン、これはザクロを意味し 割れば酸味の強い鮮やかで真っ赤な粒々がぎっしりと詰まった果実ですね。

グレナディンタイはネクタイの種(織り地)を表しますが、フレスコタイとも呼ばれており ブッシュジャケットとサファリジャケットの様に同義語となります。
 立体的な織り地で表面はボツボツ・ザラザラとしており、敢えて隙間を作り出した織り方ゆえ通気性に富んだ丈夫な織り地でもあります。

ザクロのゴツゴツ・ゴロゴロした立体感が故のネーミングなのかも知れませんね。












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・・・・・今では英国を代表するネクタイメーカーでもある DRAKE’S さんのグレナディンタイです。
見ればその雰囲気に納得がいきますよね!






 当店にてオリジナルのタイを展開させて頂いた当初より、この大好きなグレナディンタイは絶対に具現化したいと思っていたタイなので御座います。

一見 ニットタイに酷似していますが、根本的に違います。
ニットタイは編み物でありボリューム感が強く、剣先は基本スクエアですね。
対するグレナディンタイは織物であり結んでもニットの様にモコモコする事はありません。

シルクで織られていますが、シルクの持つ光沢感は抑えられ、織り地独特の表情も本当に豊かで存在感があります。
 ザックリしているので良い意味で堅苦しさも無く、ダークスーツのみならず ジャケットスタイルなどのスポーティーな装いにも抜群に合います。

昨今の時代性にもマッチしていると言えるでしょう。

 更には この通気性の良さから春夏系にも捉えられがちですが、丈夫で立体感もあって実際は通年使いとして扱われるものです。
ですからツィードに合わせたってGOODであり、とても懐深きタイでもあるのです!














・・・・・具現化するにあたり、実は直ぐに険しい道のりである事を知りました。
実はドレイクスに限らず、英国ブランドでもグレナディン(生地)はイタリアで織られています。
イギリスでは既にグレナディンを織れる織機を手放してしまっており、残念ながら英国内ではもう織れなくなっていました。
そのイタリアでさえも2社しかその織機を所有しておらず、しかもミニマムロットが半端ではありません。
大手メーカーさんでなければ なかなか発注出来ません。

暗礁に乗り上げてしまい、もどかしくも気付けば何年もが過ぎてゆきました。

しかし そこに嬉しき機会が訪れます。
灯台下暗し、、、実は日本国内で具現化できる光明が!!


それは西の都である京都に存在します。











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・・・・・日本はもともと和装文化でしたし 【 西陣織 】 と言えば誰しもが耳にしたことがある事でしょう。

英国の古きミルなどは1800年代とかありますが、西陣の歴史は遥かに陵駕し途方に暮れるほどでもあります。

その凄まじい歴史について、簡単に覗いてみましょう。
日本史の勉強にも(笑)。











西陣織




 京都・西陣の地で織られる先染め織物をさします。
日本を代表する絹織物 そして世界に名高い西陣織の源流は 5〜6世紀頃に朝鮮渡来の秦氏が始めたとされています。

そして奈良時代(710年)、平安時代(794年)と歴史を紡ぎ
平安時代には宮廷御用の『織部司』として発展して参ります。
( 織部司…日本古代の律令制において大蔵省に属する機関・役所の一つ )

鎌倉時代(1192年)室町時代(1338年)と続きますが
応仁元(1467年)より京都が主戦場となって西軍と東軍が戦った内乱がありました。
これが有名な『応仁の乱』で御座います。

 この内乱により、京都は一時的に壊滅状態に陥り多くの織手の方々は非難しました。
やがて その織手たちは また京へ戻り、徐々に再興を果たします。
その地こそが西軍の陣 跡地であった為、西陣織と呼ばれるようになったそうです。


『 西陣織で織れないものはない 』
こう言わしめるほどの絶対的な自信は、長きに渡る伝統的な技術により支えられています。
伝統工芸12種:綴織、経錦、緯錦、緞子、朱珍、紹巴、風通、捩り織、本しぼ織、ビロード、絣織、そして紬 となります。
 これら全ては着物地前提であり、絣や紬くらいは私でも耳にします。


ここで グレナディン ですよ、
日本では上記ベースとなっている西陣12種のうち『捩り織:もじりおり』がそれに当たるのです。
 凄い事ですよね、どれだけ感動した事か!











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・・・・・江戸時代も半ばを過ぎると西陣にも苦境が訪れます。
度重なる飢饉で不安定な世の中、幕府による奢侈禁止令もあって需要が減少。
(奢侈:しゃし…必要な程度や身分を超えた贅沢)
丹後や桐生などに新しい絹織物産地が生まれた事も痛手ながら、更には明治になって首都が東京に移された事も京都の街全体の勢いを失わせました。


1801年 フランス:ジョセフ・マリー・ジャカード氏により
有名な自動織機であるジャカード織機が発明されます。
 西洋の先進技術にも積極的であった西陣では 文明開化のチャンスにといち早く呼応します。
1873年にはフランスなどから京都の西陣へ日本初となる導入へと漕ぎ着け、更には3年後に国産のジャカード織機までをも誕生させたそうです。
















・・・・・日本におけるネクタイの歴史について、幕末期に中浜万次郎氏が持ち帰ったのが最初と伝えられており 国産のネクタイは 1892年(明治25年) やはり西陣において始まりました。

ピーク時には西陣業界だけで一千万本をはるかに超える生産を行っていましたが、皆様のご存じの通り、、、、2005年(平成17年)のクールビズによって激減の一途を辿ります。

良く覚えております、これほどショックで悲しくなったニュースはありません。
ある意味 洋装文化の根底無き日本らしいとも言えますが、もともとネクタイを締めない無いお方が、、、。















・・・・・話を戻しますが、和装でない洋装アイテムとなるネクタイ。
日本の民族衣装でもある着物(和装)、この分野での専門家方が単なるネックウエアの1アイテムに過ぎぬネクタイを作り出す、、、簡単な様でとても難しい事でもあるでしょう。

当店BLOGをお読みくださるようなテーラードの装いに意識の高い方々が望まれるようなネクタイを作り出すには単に技術とは違う勉強が必要な事は否めません。

ここが一番難しい所でもあり、折角の高度な技術や品質が洋装物になると調和しないものが多い事も事実です。
和装織物が源流であるがゆえに和装に関しては卓越した知識や蓄積された伝統があります。
その方々が洋装であるクラシックなスーツをどれだけ愛用し、どれだけ理解されているか、、、という事になってしまうのでしょう。



 であれば、その洋装知識のある人物がプロディユースをすればどうでしょうか!?

と思い立ち、企画をスタートしました。
思ったより随分と長い道のりでしたが、、、、そうです、お察しの通り
次の当店オリジナルタイは 純国産品 で生み出されたグレナディンタイとなります。
 デビューはもう間近です!













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・・・・・沢山のグレナディン系織物見本を拝見させて頂きました。
グレナディンタイたる大きな特徴、それはこの様な隙間であり、内側が透けるほどです!
織り糸自体にも太さだけではない展開がありますし、それはもう織りに関するノウハウは正に歴史と伝統に裏付けられた重みや説得力があります。
全てではないにせよ、既に手放しで素晴らしいものも御座いましたし、風合いも素晴らしい。

海外生産と違い、言葉の壁も無く些細なニュアンスさえ正確に伝える事が出来ます。
私が拝見させてもらった幾つかの見本ですが、それもご覧いただきましょう!


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・・・・・素晴らしいものから ⁉なものまで本当に多彩で和を感じさせるデザインもありました。
土壌は盤石なのですから その皆様のお力をお借り出来れば最高のネクタイ地が織れる事でしょう。









・・・・・今回のオリジナル・グレナディンはもう糸から作って頂きましたし、色にも相当拘りましたし、悩みました。
サンプル生地を織って頂くだけで相当な時間がかかります。

そうです、この織(織機)は古いですし大変時間がかかります。
旧型織機にありがちな生地幅も狭く生産効率も頗る悪い。

だからこそ、職人さん方から生み出される その最高のグレナディンシルクは愛おしくさえあります。
 ですが、時間かけて織って頂いたサンプルを見ては修正、また修正、、、私自身も妥協できません。
念願のグレナディンです、最高の自信作を皆様へお見せしたいのですし、何より私自身が楽しみで待ち遠しい(笑)。

そんなモチベーションから最高なものが生まれると信じておりました。













・・・・・仕様はいつもの 裏無し一重仕立て、エッジはハンドロールの手縫い仕上げ。
先方様より『こんなのやった事ない、、、、。』
仕立て自体もここからスタートでした。

ネクタイにも長さは幅だけではなく、シルエットや芯地、多様な仕立て方もあります。
そもそも論、ネクタイは単純スカーフを首に巻いたところからのスタートと知って頂くところからでもあります。

 本当にご苦労をお掛け致しましたが、そこは技術ある卓越した職人さん方です。
後は慣れるだけ、、、見事に素晴らしいレベルまで直ぐに到達されました!



『 形だけネクタイ、生地は最高 』 だけではダメです!
色柄などのデザイン面は勿論の事、締め心地や締めた時の顔立ちなども含め、更には付加価値をどれだけ付けられるでしょうか、、、、
それらを込める事が出来たら 多くの方々が欧州タイメーカーだけではなく、NISHIJINのタイも手に取ってくれる筈であると信じております。













・・・・・今回はここまでとなります。
文字ばかり、歴史蘊蓄ばかり、、、面白くない予告編だったかもしれません。
されど、私自身も全然知らなかった自国内の歴史や背景に至るまで かなり多くを学ばせて頂きました。

そして西陣のご担当者様へ私なりのメッセージと共に心よりの感謝も込めた今週のお話でした。
(私の様な若輩者が誠におこがましく、恐縮で御座います。)



 日本の技術力は本気を出せば世界一だと思っています。

あとは曖昧ですがセンス、私自身含め磨き続ける必要があります。
洋装に特化した場合、歴史的根底無き日本ではその差を埋めるべく相当の学びと経験が必要で御座います。
















・・・・・英国シルクメーカーの雄である VANNERS SILK WEAVERS
そのなき今、素敵なご縁に恵まれ 念願のタイを生み出す事が出来ます。
もう直ぐ その新作:グレナディンタイをご紹介できる予定ですので、今暫しお待ち下さいませ。


そのVANNERS SILK WEAVERS には相当お世話になって参りました。
無くなるなんて今でも信じられませんが、、、
そのVANNERS製オリジナルタイが本当に貴重となってしまいました。

 当店 定番扱いでもあった ネクタイ三銃士 是非今一度ご覧頂ければと思います。


【 ネクタイ三銃士 】



こちらの方も随分沢山作りましたが、流石に減って参りました。
手に入るうちに 是非ヴァンナーズシルクを、当店三銃士を宜しくお願い申し上げます。








 では、今週も最後までお付き合い頂きまして
誠に有難う御座いました。

皆様とお会い出来る日を心より楽しみにしております。









posted by 水落 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | おススメ情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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