2018年02月27日

【 HOUSE STYLE ORDER@ 】




 皆様、こんにちは。
いよいよ寒かった2月も明日で終わりです。

3月になればもう少し春らしさが感じられてくるでしょうか。










 では、早速 今週の本題に参りましょう。




 作れば売れた時代、スーツも既製品のシェアがますます広がりました。
そんな頃と比べれば、こと紳士服におきましては随分と『 オーダーでスーツを作る 』という事が増えて参りました。
今ではセレクトショップやデザイナーズブランドに至るまで参入しておりますね。

在庫リスクを抱えるのであれば、オーダーは受注生産ですから そういったリスクを回避できるという事は大いなる理由の一端でもありましょう。

また、昔ながらの所謂フルオーダーばかりではなく、イージーオーダーの進化も見逃せない事実です。


消費者の方々におかれましては 選択肢が増えた事は良い事ではあるものの、
どこで、どの様な、どの位のレベルなスーツを作りましょうか、、、。

その普及した『 イージーオーダー 』という形態に着目してみます。







 デザインや仕様、品質や値段も本当に様々であり、それらお店の(作られるスーツの)スタンスやグレードもある程度理解しなければなりませんね。お値段にも直結して参ります。

採寸から補正のレベル(型紙作成)、仕立てる上での品質(縫製)、その前に御注文を頂く際に伴う打ち合わせの時点でもお店によって差がありましょう。

(良い・悪いという括りでは無く、お店により 出来る事・出来ない事の差がとても大きいという事になります。)




 さて、弊店で扱わせて頂いております HOUSE STYLE ORDER につきまして
国内屈指の腕を持つ工場さんにお世話になりつつ、皆様へ少しでも満足度の高いスーツを御提供出来るよう精進しております。

 顧客の皆様におかれましては 多大なるご高配を賜りまして、心よりのお礼を申し上げます。

工場さんからしてみれば、私からの要望は高く、そしてうるさく、付き合いの楽なクライアントで無い事は確かでしょう。
 これは技術者たるTAILOR目線であるという事と共に、高いポテンシャルを持ち 大いなる伸び代がある工場さんだからこそです。

もう本当にお世話になっておりまして、つくづく感謝するばかりです。



しかし、仮にですが 日本国内に限らず、世界一の縫製工場さんでHOUSE STYLE ORDERを仕立てて頂いたとしても 私にはきっと満足出来ないでしょう。


 それは当たり前な事でもありますが、BESPOKE TAILORが満足出来るレベルを
そもそも大量生産を前提とした縫製工場さんで期待する事自体に無理があります。

普通車を生産するライン工場でF1マシンは作れませんね!
それぞれの意図に伴ったステージが存在します。

それは イージーオーダーのカテゴリーでも、ビスポークのカテゴリーだとしても、それぞれの各カテゴリー内で更にステージがあるのです。




 では、そのイージーオーダーというカテゴリー内で具現化出来得るハイレベルなスーツを仕立てて頂いても、まだ満足出来ぬのであれば それは自分自身である程度補うしかありません。


その一端となるのが弊店HOUSE STYLE ORDERの仕立て上がりに行う『 2次加工 』となります。


 市販車を改造し、競い合うレースがありますね。
チューンナップ(アップ)をして、少しでも多くのパワーと共に、スピードを出したい訳です!
そのチューンナップを行えるのは技術者であり、テクニックなのです。
(これも そもそも基たる車なりスーツのポテンシャル自体も高い方が良い訳です。)


 今週は、そんな風景を 2回にわたってご覧頂ければと思います。














 とある日、工場さんより 仕立て上がりホヤホヤのスーツが3着届きました。

p1.jpg


とても綺麗な仕上がりです!

手前のスーツは、弊店オリジナルの GOLDEN BALE による三つ揃いです。
大変御贔屓を頂戴しております H様よりご注文頂きました。

真ん中、そして奥の2点は、同じく多大なる御贔屓を頂戴しております S様より
H.LesserのVINTAGE、同じくVINTAGE MOXON:GOLDEN BALE による三つ揃い2点口で御座います。

 最高の生地にて、HOUSE STYLE ORDERの最高スペックでお仕立て頂きました。




これからプレスをしながら、検品や検寸を行って参ります!


 今週は TROUSERS から御紹介させて頂きます。











p2.jpg


・・・・・先ずは表裏引っくり返します。
糸くずや糸始末不良、袋地や膝裏の具合を確認しつつプレスして参ります。

この部分は、ウエストの内側です。
手前がW-BAND裏となる腰裏、接がれて繋がっている奥のスカートが腰幕と言います。

大抵は『マーベルト』と呼ばれるインスタントで簡易な腰裏専用の裏帯が使用される部分ではありますが、BESPOKEの様に腰裏と腰幕に分離し、深くまで確りとホールドさせるようにしてあります。

 プリーツ(折り襞)が見えますね。
これは必ず必要であり、この襞によってウエストとヒップの差寸を補っています。
そのプリーツ分量が適切でなければ 綺麗に折り直しです!










p3.jpg


・・・・・お尻の部分です。写真上部が尻縫い目であり、ウエストサイズが出せる様に沢山の縫代が付いていますね。
脇や尻縫い目なども確りと縫代を割り直し、後側のクリースライン(センターの折山線)を一度 途中まで消します。 自分で改めて付け直すからです。










p4.jpg


・・・・・ここは股の部分です。
左側にグレー裏地が見えますが、前身頃裏であり膝裏地です。
内脇縫い目を挟んで尻側の後身頃です。

股の部分は、尻と内脇の縫代が十字に重なります。
黒い半月型の股シックはボロ隠し(縫代隠し)と共に、余計な摩擦を軽減しつつ、補強も兼ねた大切なパーツです。

 尻グリの縫代処理をクセ取りで確りと行いつつ、股シック周りもバッチリと潰し直します。

この辺りは股周りのスッキリ感や収まり具合が全然違って参りますので穿き心地にも大きく影響致します。












・・・・・表に返しました。
左側の外脇縫い目部分です。 フロントは1-PLEATのデザイン、脇はスラントポケット、尻ポケットは無しでのご注文です。
脇ポケット口 と 向う布 は確りと柄合わせされて綺麗に仕上がっています!

p5.jpg


 ですが、ここからが重要な所です。

NO-PLEATや1-PLEATの場合、どうしても脇線自体はカーブの度合いが強くなります。
『 綺麗に、正確に仕立て上げた 』 ここまでが工場さんの役割です!

ここからクセ取りを行います。









p6.jpg


・・・・・スッキリと直線だった縞が、カーブを描いているのが分かります。
強制的に曲げているのですね。

脇縫い目を見て下さい。 先の写真では縫い目自体がカーブしていましたが、縫い目を直線的にしつつ、そのボリュームを前後に振るのですね。

この操作により、脇ポケット口は少しイセ込まれます。

 これで、穿いた時の脇への馴染みや吸い付き、そしてラインまでもが雲泥の違いが出ます!!











p7.jpg


・・・・・脚に参りましょう。
極一般的ですが、、、ストローの様に真っ直ぐでストレートな脚筒です。

H様におかれましては、後身頃の股部に共地補強布を付けられました。

 ここから脚のフォルムに合わせて曲線にします。
ふくらはぎのボリューム考慮ともよく言われます。勿論それも有りますが 多くの方々は棒の様に直立では無く、ある程度反った状態でバランスを取られている方が少なくありません。

勿論 度合いの個人差は大いにありますが、その御方の姿勢であり、自然体がそうでもあるという事です。
言葉で言えば反身体となりますが、結構な比率の高さですね。

 誂えスーツは その方の為だけに仕立てられるのです。
クライアント様の体形に素直に寄り添います。












p8.jpg


・・・・・マジックの様ですが(笑)ある程度のライン成形が終わると、蓋をします!
当て布ですね。 スチームの透過が良い平織ウール地を使用しています。
(これも起毛系やテカる生地などは当て布の種類を変える必要があります。)

ウールは、水と熱と圧力によって成形できます。
この融通性・柔軟性を生かし、様々な技術によって立体成型するのがクセ取りであり、テーラードです。









p9.jpg


・・・・・バッチリとクセ取りができ、立ち姿勢と共に、脚のフォルムやふくらはぎのボリュームなどを加味された形状になりました。

真上からでは無く、斜に写真を撮っているのでより顕著には見えますが、
「取り過ぎでは、、、そんなに曲がってないよ!」と思われる方も少なくないでしょう。
その通りです! これは故意的にわざわざ過剰なラインを作り出しています。

 何故でしょう!?

皆様もご存知の様にウールには復元力があります。
クセ取りされたこの現状態からある程度は戻ってしまうので、それを見越している訳ですね。

また、HOUSE STYLE ORDERはどうしても後付けでクセ取りを行う為に、戻りやすいとも言えます。
BESPOKEの場合は もう裁断直後から、組み立てる工程の間ずっとクセ取りし続けます。
仕上げまでずっと意識され、そのフォルムを維持しようと仕立てられます。

 故に 後付けより何倍も戻り辛く定着率が高いのです。













・・・・・ストローの逆足を下ろして重ねてみましょう。
どれだけ意図的に下げて曲げているのかがお分り頂けると思います。

p10.jpg


これにはもう一つ大事な考慮がありますが、、、、、もうキリが無いので ここまでにしておきましょうね。










p11.jpg


・・・・・逆足も同じ様に、同じ位にクセ取りです。
直線である筈のストライプをご覧ください。縞柄なので分かりやすいですね。

前後クリーズライン(前後中心の折山線)ですが、単に紙同様 畳めばその折れ線は直線ですし、縞も当然ながら直線ですが、ここまで川の流れの様にカーブ線を生み出します。 

ウールの生地はこの様に息を吹き込まれ、立体的に成り、身体に合わされていくのですね。











p12.jpg


・・・・・今回 H様よりお預かりしておりました お直しのトラウザースも新しいご注文のスーツと共に上がって参りました。

これから同じく2次プレスをかけますが、、、脇縫い目に対し 直角に横皺が見えますね。
工場さんかからはハンガーに掛かって納品されます。
 運搬中にトラウザースが落ちぬ様、ぐるりと一回り引っ掛けられて納品されます。

ハンガー皺、、、これは回避出来ませんし、仕方のない事です。

弊店では2次プレスするので別に良いですが、店内にアイロン設備の無いお店ではどうしているのでしょうか!?









p13.jpg


・・・・・沢山ご愛用くださったからこそ、、、尻縫い部分が摩擦により 擦り切れてしまいました。 その修繕でのお預かりです。

カケハギも一つの手法ですが、工賃と工期が結構かかります。
それ以外で一番単純で簡易に修繕を行えるのは、この様に裏に充て生地をし、同色ミシン糸で確りと補強しつつ縫いつぶすのです。

 カケハギと比べれば見た目の綺麗さは歴然です。
ですが、股部分ですから穿いてしまえば見えません。

お直しにも様々なテクニックがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
考えられる選択肢を全て御説明させて頂き、ご相談の上でその手法を御選択頂きます。


H様、新しいご注文は補強布を付けておりますので安心ですね!













・・・・・S様のトラウザースに参りましょう。

同じく裏側に引っくり返し、、、
!!!!
これは脇ポケットの袋地です。 たまに有り得ます。

p14.jpg


確りと綺麗にプレスしますので大丈夫です!
検品、そしてプレス、欠かせないと言いう事が良くお分り頂ける事と思います。










p15.jpg


・・・・・同じく股の部分です!

S様も内股補強布をお付け頂いておりますね。

S様は身長含めお身体が大きいので、トラウザースも当然大きいです!









p16.jpg


・・・・・シルエットが太ければ太い程、足のフォルムを追いかける度合いは減ります。
それだけ筒が太いので、脚のフォルムはキャンセルされる事になります。

しかし、立ち姿勢考慮は別ですので度合い自体もお客様、そして構成されているシルエットによります。











p17.jpg


・・・・・トラウザースが全て終わりました。

良くあるプラスチックハンガーは、バーの所が2本で出来ているので運送の際に落ちない掛け方が必要でもあり、ハンガー皺を生み出します。

 このハンガーは滑り止めがバーに付き、落下防止は押さえるゴムを使用するのでハンガー皺入らずです!













・・・・・如何でしたでしょうか。


近々には、ウエストコート、そしてジャケットの2次プレスを御紹介させて頂きたいと思っております。


 スーツを仕立てる上で、あるべき姿でもあるフル・ハンドメイドのBESPOKEというレベルがあり、それを理想と掲げれば HOUSE STYLE ORDERにもどれだけの技術と手間を落とし込めるのかが品質向上のカギでもある訳です。


物作りは 追求すればする程にキリがありません。


 今回はこの辺りまでとさせて頂きます。
皆様の大切な御注文の品は、こうやって1点1点大切に、そしてパーソナルな対応のもと お手元に渡ってゆきます。

 平素より、素敵な御注文を頂戴致しまして誠に有難う御座います。











・・・・・誠に恐縮ながら、来週のBLOG更新はお休みとさせて頂きます。
申し訳御座いません。

次回は、3月13日(火)の予定となります。

 どうか引き続き 宜しくお願い申し上げます。



今週もお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いました。









posted by 水落 at 09:00| Comment(4) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月01日

【 肩縫縮について 】


 こんにちは。
本日より 11月に入りました。

そろそろオーバーコートの着用も視野に入って参りましたね。


 今年中にやるべき事、、、
あと二カ月です! 毎年ながら焦りますよね。















is1.jpg



 個人的に思い入れ深き COVERT COAT
このBLOG内でも紹介させて頂きました。

http://dittos.seesaa.net/article/407464018.html
( COVERT COAT )
http://dittos.seesaa.net/article/407856620.html
( COVERT COATA )








 さて、今週はちょっとした訳も御座いまして
弊店BLOGでは人気の薄い 技術のお話を久しぶりにさせて頂ければと思います。

普段 皆様が御着用されている紳士服の仕立てについて、たまには少しお勉強もして参りましょう。
仕立てに伴う様々なテクニックや技術は、完成してしまえば 見えない・分からない事ばかりです。 中身などは裏地で蓋もされてしまいますので尚更でしょう。

 何故 仕立て良き服は時間も掛かり、お値段も高額となるのでしょうか。
ほんの少しでも垣間見る事が出来ればと思います。
















話題は【 肩イセ 】について、
カバートコートの肩地縫いを見ながら御説明致しましょう。







・・・上物を仕立てる上で、肩周りはかなり重要度の高いポジションであり
着心地などをも左右する箇所であります。







縮縫

( イセ と読みます。 )




イセ、イセ込み等の言葉を聞いた事があるでしょうか。
漢字は正にストレートです!



● AパーツとBパーツを縫い合わせて結合させる際、AとBそれぞれの距離が意図的に違う縫い目径に対し、長い方を短い方に合わせて強制的に縮め縫いを行うという技法の事を指します。






イセという行為には、主に『 立体にする 』という目的があります。
類似行為としてはギャザーが挙げられますが、ギャザーは縫い縮めた事による布の強制された寄り付きにより 細かな襞が生まれます。それをそのまま生かします。

 弊店のシャツにおける背中や袖口に施されている沢山の細かな皺がギャザーです。


同じくは、ギャザースカートを思い浮かべてみて下さい。
細かく縫い縮めればギャザー、そしてこれら縮める距離の処理をギャザーでは無く 襞をもって畳んだ場合、これはプリーツスカートに成ります。

 双方のスカート、ウエストから広がるヒップへ、そして裾にかけて優雅なシルエットをという意図的なユトリを生み出させる為に行われます。












● 対してイセは、縫い縮めにより発生した細かな皺や襞を消して綺麗に処理致します。
ここが大きな違いとなりますね。

これらの行為を業界では 『イセを殺し込む』 など やや物騒な言い方をされます。



殺し込むというのは、確りと潰す、折る等を含め アイロンで綺麗に処理して『抑え込む』という様な時にも使われます。




 では、AとBというパーツに対し、どちらかの距離を意図的に長くする事によって どんな事が発生するのでしょうか。

仮にAよりもBが長い場合、B側を立体的にしたいという意図がある訳です。
紳士服の仕立てにおいて、本当に沢山の箇所で行われている行為です。
(パーツ同士の結合でなくても、部分的な個所を狙ってイセ込む事もあります。)

 そこら中にイセ込みによる立体成型がありますし、意図的にユトリを加える裏地などキリが無い程にクセ取りと共にイセ込みは日常的に使われているテクニックと成ります。



そのイセ込みですが、分かり易くは やはり『肩』や『袖』と成りましょう。













● 上着において、アームホールを身体に合わせて小さく作り込む事は機能性を上げる為にも必要な要素です。

そのアームホール(AH)ですが、身頃(BODY)の AH寸法、そこに付く袖の AH寸法 が1対1で同寸法であると 袖筒は細くなり着辛く 動きにも影響を及ぼす事にもなります。



男性の確りした肩の三角筋をホールドしつつ、動きに対するユトリを与えるのが主体となる目的です。 また、袖が立体的となり、綺麗に丸くフワッと落ちる様な効果も与えます。
(このフワッとを支えるのが袖の内側に入る『裄綿』と呼ばれる芯の部類に入るパーツと成ります。)


 同じく肩縫い目でのイセは、身体に伴うよう定めた肩幅に対し
隆起した肩甲骨をホールドしつつ、背幅のユトリ、そして前肩成形へ繋げるという目的があります。




 因みに、、、、
皆様もご存知であろう フラットジャケットの『 MA-1 』
この秋冬でもリバイバルなのか 良く見かけますね。

 腕を前に出して操縦しますので より背幅はたっぷりとしていなければ成りません。
上記 肩イセの様な意図的考慮を 後の肩線に『ダーツ』 を摘まむ事によって処理と共に補われています。










文字ばかりで分かり辛いですね、、、、、。

では、実際に写真を見ながら肩のイセ込みをご覧頂きましょう。













is2.jpg


・・・・・左前身頃 肩部です。
ラペルが見えますね! 上部が肩線と成ります。

その肩線、白い糸印(切躾)が見えます。これが設計上での肩線であり 既に縫代が含まれています。
 しかし、更に余分な縫代も付いていますが これは様々な補正直しに対応出来る様に付けてあります。


因みに、上衿の裏側に『ヒゲ』と呼ばれる折り込まれた縫代があり、仕立て良き服の代名詞的に紹介されている事もありましょう。
 しかし、そのヒゲは この肩の余分縫代あってこそ生きる縫代(折代)であります。
肩に余分な縫代が付いていないのにヒゲだけ付けた服は、意味無きデザイン優先のディテールという事になってしまいます。
(かなりマニアックな話ですが、その服のレベルや完成度、説得力を垣間見る事が出来ますね。)



 話を戻します!
その肩線から下に 白いチャコ線を引いてみました。
(この白い線上が縫い上がり線と成ります。)
白い線に対し両側のエンド、それが左側が衿の付くネック部分、右側がAHとなる部分、そしてこの肩線の長さが肩幅を決めていると言えます。















is3.jpg


・・・・・その前身頃肩部に後身頃(手前側)の肩部を乗せてみました。

後側の肩縫い目は 予め縫上がり線(前の肩線で言う白チャコ線)で畳んでいます。

これら前後肩の縫い上がり線である 白チャコ線同士(縫い上がり線)を結合し肩縫い目となります。
ネック部分を互いに合わせると、AHの所では後肩線が長くなっているのが分かります。
全然距離が違いますね!


この長い分だけ、前肩に合わせて縫い縮める(イセる)のです。












is4.jpg


・・・・・肩線という距離に対し、エンドはネックの線との交点、AH線との交点となる事を先程述べました。

それぞれを前後肩線の各交点で合わせると 当然ながら 距離の長い後肩線は浮いてしまいますね。

その浮き分を更に等分で止めてあります。


肩のイセ分量、これはハンドメイドの服と、大量生産される既製服とではイセ込む量が全然違います。

 イセの量が多くなれば成る程 処理や『こなし』も難しくなるという事です。
そして、それらは立体度合にも大きく影響するという事になります。



ジャケットで大体2pのイセを入れていますが、人によって量は変わりますし、肩甲骨の隆起が大きい方は そのイセ量の配分を等分では無く、隆起TOP付近に多く入る様に分配も致します。


手縫いであれば3pのイセ量でも技術により入れ込む事は全然難し事ではありません。
しかし、沢山あれば良いという訳でもありません。 厳密に見れば、人それぞれに必要な量が違うという事になります。

 今回の様にコートであれば、インナーであるジャケットに伴っていれば良い訳です。
イセ量や配分なども既にインナーで判断されているからです。












is5.jpg


・・・・・では、この浮いたイセ量を強制的に縫い縮めて参りましょう!
細かく過剰量(イセ量)を分散させながら丁寧にチクチクと地縫いして参ります。

is6.jpg














is7.jpg


・・・・・縫い終わりました。
これで肩縫い目が出来た訳です。 写真奥側が前身頃、手前側が後身頃です。
縫い縮めた後側の肩は強制的に縮められたので波を打っているのが見てとれます。

 同時に、縫い込まれた側である 前身頃の肩線は、この時点で強制的に与えられたイセ量に耐え切れず 距離が多少伸びてしまっています。














is8.jpg


・・・・・次に肩線の縫代を割って処理致します。(イセを殺し込みます。)

鉄万という部分アイロン台に肩線を乗せました。
奥側が前身頃、白っぽく見えているのは毛芯です。

手前側が後身頃、更に手前には背裏地が見えますね。
 それぞれ肩周りの処理が出来る様 捲られるように据えられています。













is9.jpg


・・・・・縫い目含め、必要な個所に水を付けてジュ〜〜っと縫代を割ります。
この時、イセ量に耐え切れなく伸びてしまった肩縫い目、この伸びたであろう距離を元に戻す様にアイロンを当てます。

そして、発生したユトリ(波打ち)も馴染む様に、かつ波打ちが畳まれたりしない様にアイロンを手前方向へ動かして殺し込むのですが、殺し込むのは肩甲骨のTOP位置までです!




 ピカピカなアイロンに映り込む間抜けな私には気付かぬフリをしておいて下さい(笑)!













is10.jpg


・・・・・はい、サッパリと処理出来ました。
あれだけ波打っていた分量は殺し込まれて綺麗に内蔵された事になります。

こうなると、意図的に多く入れた分量なんて全く分かりませんね!


今回の様にイセ分量が 2pレベルでも、お安い既製品スーツの上着等はミリ単位(1p以下)だとしても 技術者でなければ完成した服を見て区別などつかないでしょう。







 今回のカバートクロスは楽に処理出来る生地の部類です。
ざっと同じ工程を違う生地で見てみましょう。

春夏用のウールトロピカルです。
春夏用の生地は往々にして入れ辛い生地が多いのも事実です。


同じ様なイセ分量でも、波打ち具合は大きく過剰に見えますよね。

is11.jpg



is12.jpg



is13.jpg















・・・・・袖のAHにも同じ事が言えます。
縫い縮める為 袖AHにギャザーを寄せ、それを殺し込んでフラットにさせてから袖付けをすれば 極一般的に見受けられる袖付けになります。

 皆様のご存知の雨振り袖は、かなり簡単に言えば イセ込みを殺さずに付けているから雨が降っていると言えますね。 分かり易く言えば ギャザー袖という部類に近いです。
 ただし、AHのイセ込みは必ず必要なので、そのイセを殺すか殺さないかだけであり 双方には必ず入れ込まれています。




今週の工程は肩の地縫い、及び縫代処理に伴う殺し込みという事になりますが
重要なのは『肩据え』であり、肩全体の作り込みに対し 今回入れたイセ込みを有効的な処理と共に成形出来なければ意味がありません。
(それがイセ込みを、イセ分量をこなすという事です。)












is14.jpg


・・・これら肩地縫いは、勿論ミシン地縫いでも構いません。
しかし、イセ量が2pレベルともなれば 手縫いで入れた方が早く、且つ綺麗に分散出来き、処理出来ると言えます。

ミシンで行う場合は、後肩の長い方を ある程度予め 短い前肩長まで縮めてからでなければ縫えません。


 イセ量を生かす前肩成形、表地のイセ量に伴う様に裏地の肩にもイセ分量が必要です。
裏地側は表側より更に多くなければ成りません。

 お安く大量生産される上着のイセ量が少ない事もお分りになるでしょう。






 肩周りは複雑であり、とても難しい個所です。
だからこそ、高度な技術により手間暇をかけて立体成型した肩作りの服は とても着ていて楽であり、綺麗であり、動きやすくもあるのです。

本当に大きな差が出る部分です。



is15.jpg



 肩作りからしてみれば、今回の工程は一部であり、
イセの量が多いから良い服という訳でもありません。しかし、少なくても困ります。

総合的な処理が有効的に、適切に処理・成形されてこそ 仕立て良き筋の通った服となるのです。

















・・・・・如何でしょうか。
完成してしまえば、後ろの肩線が前肩線より約2pも大きく それが縫い込まれているなんて分かりませんよね。 両肩で捉えれば、背中に約4pの『幅』が入れ込まれている事になります。

 紳士服とは そんな目に見えない技術の集結でもあり、あるべき姿であるハンドメイドとなります。
それをBESPOKEと括るなれば、HOUSE STYLE ORDER は工場さんの技術力を頼りに どこまであるべき姿まで進化・具現化出来るかどうか、、、これがH.S ORDERのテーマでもある訳です。




is16.jpg


 こんなに沢山の技術が詰まった誂え紳士服、各工程にはそれぞれのストーリーがあります。
全てを高次元でまとめあげ、筋の通った説得力高きスーツを仕立てるには
相応の時間と技術が必要です。


 高額な物には高額になる理由が必ずあるのではないでしょうか。



一人でも多くの皆様に筋の通った説得力高きクラシックなテーラードに袖を通して頂けましたら 何よりの幸いです。

















・・・・・いよいよ11月です。
皆様よりご注文頂きました BESPOKE GLOVES ですが、そろそろ届く頃です。
 現在 先方様へ確認中で御座います。

上がり次第、皆様へ個別に御連絡させて頂きますので 今暫しお待ち下さいませ。

 また、この秋冬デビューが遅れておりました 弊店オリジナルのネクタイに付きまして
現在 職人さん方が急ピッチで仕立ててくれております。

11月上旬には仕立て上がって参ります。
 早ければ来週のBLOGで御紹介出来るかも知れません!

どうかこちらの新作タイの方も 合わせて宜しくお願い申し上げます。














・・・・・手前事で恐縮では御座いますが、
先月の 10月28日をもちまして Bespoke Tailor Dittos は 本当に皆様のお陰様により 7歳となる事が出来ました。

既に8年目を迎え、つくづく時間の経過を早く感じると共に
弊店の様な小さな個人経営店がここまで存続出来た事は、全てにおいて皆様のお蔭に他なりません。

 本当に多くの御贔屓下さる顧客様方、そして御協力下さる工場さん、生地屋さんを始め全ての取引先様、
そして心底信頼する愛弟子達に加え、家族の支えも勿論御座います。

皆様 本当に心からの感謝をしております。
 言葉だけでは軽々しくはありますが、誠に、誠に有難う御座います。


どうかこれからも変わらぬ御指導、御鞭撻の程 頂戴出来ましたら幸いで御座います。

日々皆様のご期待にお応え出来ます様 益々の精進をもってお礼に変えさせて頂きたいと思います。


 どうも有難う御座いました。








 I様、プレゼントまで、、、、、大変恐縮ながら 有難う御座いました。
28日まで待って、当日に美味しく頂きました!! 







posted by 水落 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年08月26日

【 COAT < OVERCOAT A 】


 こんにちは。
もう8月も後半です。暑さは十分に堪能しました。
残暑もあるでしょうが、9月を迎えれば流石に過ごし易くなると良いですね。



 早速では御座いますが、先週からの続きを書かせて頂きます!!
かなり書いている本人の自己満的な要素が高いと思いますが、、、宜しくお願い致します。













p0.jpg


・・・こんなにもシルエットが綺麗でエレガント、クラシックなオーバーコートは
もう誂えでなければ手に入らないのではないでしょうか。
ブラウンのダイヤゴナル、激渋です!
 インナーのブラウン系格子のスーツも素敵ですね。











P1.jpg


・・・3者3用 それぞれクラシックで正に伝統的なオーバーコートを着用されております。
ポロ、カバート、チェスターとSTYLE BOOKの様です。
やはりコートスタイルにグローブは必須ですね。
こんなスタイルをサラッと着こなせる紳士に成りたい! 皆様でしたらどのスタイルを選ばれますか!?













 では、早速始めます。
先週はオーバーコート:前身頃の型紙が引き終えたところまででした。



今週は、コート(ジャケット)後身頃のトレースから参りましょう。

奥が背中心の縫い目、丁度背骨の位置にシームがありますよね。
左側が首元、右側が裾と成ります。

p2.jpg




 前身頃と同じ様に、肩傾斜は同傾斜で、ネック周り(首の付け根辺り)含め
適性なユトリを加味し、前身頃と同じ様なバランスで分量を足してまいります。

p3.jpg


首が前付きの方、肩甲骨が強く隆起されている方、
送り腰の方、
肩幅の広い方、狭い方、
後身頃の型紙にも沢山の情報が詰まっております。
背幅含め コート(ジャケット)のバランスを尊重しつつ、ユトリを与えます。







p4.jpg


はい、もう出来ました!
オーバーコートは基本的に丈が長いもの
機能的に足さばきを良くする為にもセンターベントを切ります。
当然位置関係も重要な所です!











これで、前後の両身頃が完成です。
横向きに置かれています。 下が前身頃、上が後身頃。
右側が裾位置と成ります。

p5.jpg


構成されるバランスやユトリ加減は、
お客様がどんなスタイルのコートを求められ、どの位エレガントに
もしくはカジュアルにされたいのか、
丈バランスは!? 選ばれた生地は!?

考慮すべき点は山ほど御座います。












p6.jpg


 こちらは別の方の型紙です。
セシル・ビートン卿の様なカバートコートを、もう若干シェイプを効かせ
ほんの少しだけエレガントさも加味して、、、、

お任せ下さい! 大好物です(笑)。


p7.jpg


胸ポケットもフラップ付です。
流石に胸ダーツまでは入れませんが、ほんのりシェイプが感じられる様なバランスで。





まだこれで終わりではありません。
袖があります!











p8.jpg


前後の身頃を脇で合体させた状態で、肩先・アームホール・バスト線をトレースします。
袖山の高さを計算・設定し、
アームホールを計測し、イセ分量を計算の上で算出、
身頃のアームホールに伴う傾斜(寝かし)のバランスからインナーの袖幅(イセ込み比率)なども考慮し引いて参ります。

また、下袖にどの位機能性を持たせるか、、、これも、このオーバーコートがどれ位エレガントなのか、カジュアルなのかにもよります。


袖は当たり前ですが、BODY のアームホールに準じていなければ成りません。



袖のアームホール部分が引けましたら、コート(ジャケット)の袖型紙をあてがいます。

インナーであるコート(ジャケット)の袖幅を尊重しつつ、BODYと同じく 肘幅や袖口幅に適正なユトリを入れ一回り太く大きくします。 勿論長さ(袖丈)もですね。


その時に、もし今回の様に誂えであれば
袖の振り位置、太さ、肘位置設定、『く』の字度合い など全てインナーに準じて設計出来る事に成ります!!



p9.jpg


インナーとアウター、それぞれの袖がどこにも無理なく落ち着いて落ちますし、
この行為(設計)が どれだけ安定性・合致性が高く成るのか想像がつくと思います。


 更には、袖口にも傾斜が付いております。
床から平行線で設計されている訳ではありません。

こういった所まで細かくインナーの袖と相性を取る事が出来ますし、袖丈にしても インナー袖丈+αで単純に設定に出来ます。

ただ この部分もお客様のお好みは確認させて頂きます!













 出来ました! 先に御紹介させて頂いたお客様分、腰ポケットをスラントにされた方です。

p10.jpg









こちらは、C.ビートン卿ばりのカバートコート、
袖の太さや長さも違うのが比較するとお分かりに成ると思います。
当然その方々で色々と違います。

p11.jpg













・・・・・・・コート(ジャケット)と比べると、アームホールのカーブに伴う R が大きくなっている事に気づかれましたでしょうか。
分かり辛いですよね、、、。


インナーはアウターに比べ より身体に近いので、それだけカーブ線のRは小さくなります。
アウターは身体から離れますので、R はその分大きくなります。

これらはアームホールに限りません。
身体に合わせれば合わせる程 強き曲線使いに成り、R の度合いも強くなりますし
カジュアルな物ほど身体から離れるので直線的となり、カーブ線のルーズさへと繋がります。

革靴もそうですよね、、、お安い既成靴と、オーダーにてハンドメイドで作られた靴では
立体度合(カーブ具合)が全然違うのと同じです。
作り込みも含め、FITTING 精度の次元が全く違うという事ですね。








p12.jpg


・・・・・・先週の最後にも載せましたが、古き英国の裁断書です。
昔から足を使い良く集めました。大変貴重で大切な宝物です。

 スーツのカットはそれらから学び、準じていると言えますが
所詮は教科書です。

それに人種違えば、時代違えば、そもそも人が違えば、、、という事であり、やはり参考程度ともいえます。

そんな古き裁断書、
コート(ジャケット)からオーバーコートへの展開が記載されていますね。

先週の裁断書は、1934年の TAILOR & CUTTER 誌より、
これも同じ頃の物です。

両方ともシングルの上着から、ダブルのオーバーコートへの展開が記されています。
ダブルの両釦(打ち合い:フロントの重なり)間隔がとても広いですね。
重厚感と共に とても時代性を感じさせます。


 そのまま教科書通りに展開してもダメと言いますか、、、
全て私自身の経験やある程度の狙いや好み含む私のフィールターを通して古の技術を尊重し大切に実践させて頂いております。









・・・・・・・オーバーコートは、コート(ジャケット)ほど構築的に作らなくても良いと言えます。
芯も強くなく、増芯も軽め、肩パッドは薄く肩先のみ尊重して、、、。

何故でしょう!?

それは、オーバーコートの主体と成る『芯』とは、
インナーである構築されたコート(ジャケット)であると考えるからです。

理に適っていると思いませんか!?

あくまでもオーバーコートは纏うといった類とも解釈できます。
脱いで手に持っている事もありましょう。
仕立て自体は柔らかく作る事もオーバーコートらしさであると言えます。








・・・・・・・今回のお話は、BESPOKEのご注文に対し 生の型紙を使って御説明させて頂きました。

弊店では、HOUSE STYLE ORDER に関しても同じ手法により型紙を展開し、お仕立てさせて頂いております。
やり方や理論は全く変わりません!






・・・・・・・その昔、オーバーコートは富や権力の象徴でもありました。
贅沢な素材に、煌びやかで高価な釦をあしらったりと、、、、。




 人生で欠かす事の出来ぬ 衣・食・住 の『衣』
そこを楽しまなければ勿体無いです!

紳士服は歴史と伝統により成り立っています。
デザインやディテール含め、それら誕生の多くは戦争であったり貴族の生活様式に関わるものから生まれました。


 チェスターフィールドコート、
そのチェスターフィールドとは人の名前であり、チェスターフィールド伯爵の事です。

名前の由来に限らず、大抵の事柄に対し答えがある それが紳士服です。

学べば学ぶほど奥深さが分かり、勉強してもしてもキリがありません。
それが大いなる魅力でもあります。

 防寒具であるオーバーコート、
寒いから着る訳ですが、一歩進み 理解を踏まえ、拘りを持ったのであれば
伝統的で本質的なオーバーコートに袖を通してみたいものです。



しかし、そのオーバーコートは日本だと着用出来る期間は結構短いかも知れません。
移動時の防寒の為に着用されますので、オフィスなどの目的地に着けば脱いでしまいます。

故に、本当に長持ちします!!

だからこそ、数年着て古臭く感じない様な本質的クラシックな物を
長く付き合うからこそベーシックなデザイン、質の良い生地や仕立てで御誂え下さいませ。




 2週に渡り、自分よがりな内容に御付き合い頂きまして
誠に有難う御座いました。

 私自身は心底良いと思っているからこそ本気でお伝えさせて頂きたかったのです。
どうか少しでもご参考に成りましたら幸いで御座います。




 では、どうかこれからも宜しくお願い申し上げます。





posted by 水落 at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする