2013年01月15日

【 鋏入れ (裁断)】



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 新年 明けましておめでとう御座います。
既に年明け半月も経ってしまいましたが、どうか本年も宜しくお願い申し上げます。


 しかし、雪が凄かったですね。
成人式に参加された方は、折角の晴れ着ですし大変だった事と思います。

弊店の目の前は 結構急な坂ですが、佐川急便さんのトラックが坂の途中でずっと立ち往生していました。


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 さて、弊店は5日より営業を再開させて頂きましたが
今週は初仕事・初裁断でも御紹介させて頂きます。







・・・・・・・私が御世話に成っていた老舗の TAILOR では、毎年仕事始めの日には『挟入れ式』を行っていました。
経営者やカッターの方々はフロックコートを着込み、私含め所有していない者はブラックスーツ含めダークスーツ着用です。
 私もいつかはモーニングを着たいと毎年思っていた事を思い出します。


仮縫い職人さん、本縫い職人さんなど全ての関係者が揃い、年初めの裁断:鋏を社長から順番に少しずつ裁断してきます。

私も若者代表として何度か鋏を入れました。
他人の挟は使い辛く、、、思う様に切れなかったですが、これも大切なお客様の御注文の品でしたので 縁起は良いものの、自分の注文だったら避けたいなと・・・(汗)。

最終的にはカッターがちゃんと鋏を入れ直すので、大丈夫の筈です。



店頭にはイブニング・テールコートがディスプレーされ、大きな鏡モチが飾られます。
この鏡モチ、最終的には私も御世話に成っていた大森にある分室アトリエで賄いを作って下さっていた方が揚げ煎餅にして下さり、やはり私達若者が食べていました。
 もう何年前の話になるでしょうか。


今でも挟入れ式を行っているかは定かではないですが、こういった伝統行事みたいなものは残していきたいですね。




年の初めに入れる鋏、毎年そんな思いに浸りながら慎重に裁断しています。














 では、御紹介させて頂きます。
どなたの御注文を裁断するのか、、、これは単に順番がそうであったからに他ならないですが、
今年は T様の御注文 を裁断させて頂きました。





 T様はスーツだけでカウントしますと これが5着目に成りますね。
型紙にはT様の御好みや私の拘り等も反映され、随分と育った精度高き型紙です。
安心して裁断出来ますが、とにかくT様と言ったら『大きい!!』のです。
http://dittos.seesaa.net/article/290110742.html
(T様の御注文 紹介ページです。)

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 型紙の1パーツ自体も相当大きいので、いつもの様な差し込み(裁断前に効率良く型紙をレイアウトする事)は通用しません!


大抵は上着前身頃の横にトラウザースの前身頃を差し込みますが、全く並びません(笑)。
これもT様ならではの個性であります。

故に、効率良く型紙を差し込むというより、順番に並べていく、、、という感じと成ります。
当然要尺も大きいですよ。


しかも、ダブル・ブレスト:サイドベンツと パーツが一番大きく成るデザインでもあります。

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初回オーダーでは要尺が読めなく、差し込みも色々と工夫してみましたが、最終的に判断したレイアウトは写真に収めておきましたので、以後の御注文は迷わずレイアウトし裁断に望めます!

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 さてこの生地、
特Aレベルのレア物生地と成ります!!
http://dittos.seesaa.net/article/254531913.html
(この生地の御紹介ページです。)


 H.Lesser & Sons のOLDです。
織られた当時は最上級であった SUPER 100、それもただのSUPER 100では御座いません。
贅沢にG.BALEの糸を使用したSUPER 100、かつカシミアとヴィキューナまでをもブレンドしており
「これ以上の生地は無いだろう!!」 と織り上げた当時の Mr.Lesser の声が聞こえてくるようです。


 自ずと気合も入るというものですよ!

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保存も良かったせいもあり、コンディションは頗る良く VINTAGE 感が殆どありません。





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裏には Taylor & Lodge 社の印があります。
H.Lesser 贔屓の私には、こんなレア生地は恐れ多くて着られません(笑)。むしろ100年早いだろ!と自ら尻込みしてしまいます(笑)。
 だからこそ、H.Lesserを理解し御好きな方にこそ御着用頂きたいのです。











 御覧の様に この生地はストライプです。
裁断は大抵生地を二枚重ねにし、左右パーツを一度に裁断して参ります。

しかし、格子含めこういった柄物は『柄合わせ』しなければ成りませんので、『一枚裁ち』といって一枚ずつ裁断しなければ成りません! 案外綺麗に重ねていても、裏と表の縞は随分とズレるものです。



これはウエストコートの前身頃ですが、数ミリの余分を付けて先ず一枚裁断し、、、、、

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重ねてある下の生地に縞がズレない様 綺麗に重ねながらそ〜っと重ねていきます。
上下の生地が柄合わせ出来た所で、数ミリ付けた余分分ごと 切るべき線で二枚裁ちしていきます。

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 これが一番正確に裁断出来ます。

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故に 格子柄ですと、この行為を縦方向だけでなく、横方向も合わせる必要があるので より手間が掛かりますね。



また生地と言うものは多少成りとも歪んでいたり、生地の端と真ん中位の位置では 等間隔である筈の縞の感覚が合っていない事もしばしば御座います。
 勿論それらを正す為に『地のし』といって正す行為はするものの、限界もある訳です。


 そんな時は、裁断するそのパーツの重要な部分を優先的に柄合わせする訳です。



前身頃等は、やはり一番目につくフロント周りを重要視し、トラウザースの後身頃は 尻縫い線を柄合わせする為、お尻周りを重要視して合わせる事に成ります。






 また、裁断とは ただ型紙を効率良く並べ、線を引き、鋏を入れれば良い訳では御座いません。

各パーツ同士の並べ方には大小の隙間が空きます。 いや、空けます。
その隙間も重要であり、ポケットのフラップ等 様々な小物パーツも取らねばなりません。

ですから、それをも見越して型紙をレイアウトし、「ここの隙間では、このパーツを取って、、、」という計算も出来無ければ成りません。

 と言う事は、裁断は仕立てられる人間で無ければ その計算さえ正確に出来ない事に成ってしまいますね!






カッターも人の子です。
裁断も性格がかなり出ると思います! 几帳面な方、これは縫製者も楽です。

大雑把な方、これは縫製者に大雑把たるが故のズレ等が負担と成って回る事に成ります。

几帳面で正確だとしても、時間が掛かり過ぎてしまう様なら それはそれでプロ失格です。
何事もバランスですね!



一つ一つの技術には意味や意図があり、それらは全てに繋がっています。
裁断するだけでは洋服に成りません。これから立体へと仕立てていく訳です。

服地はある意味生き物でもあると言えます。
仕立てが進行すればするほど姿かたちが変り、寸法や距離等も動いていくものです。
 だからこそ、一番最初である裁断が正確で無ければ、洋服と成った時 そのズレ込みが大きく成る事に成ります。

 あっ、裁断の前に正確な型紙こそですね。







T様、H.Lesser が H.Lesser たる生地屋と言うのが伝わるスーツに御仕立致しますので、暫しお時間を頂戴致します。

御期待されてお待ち下さいませ!!















・・・・・・・綿パン(Cotton Trousers)もドリルやコーディュロイ含め 御蔭様でBESPOKE、H.S ORDER問わず御注文を頂戴しておりまして、心より嬉しく思っております。

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ある御方は、TAILORで綿パンも作れるの?? と。
当り前で御座います!! ON・OFF問わず、皆様の御要望に合わせて出来る限りの御用意をさせて頂きます。

 丸洗いできる綿パン、天候や汚れなども気にせず気軽に履ける綿パン。
是非御勧めで御座います。

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御作りに成ると、きっと色違いやスタイル違いで もう一本欲しい! と思われる事と思います(笑)。

K様、お楽しみにされてて下さい!
一年中着用出来る TENNYSON シリーズは、いつ出来上がっても重宝出来ます。 















・・・・・・・このコート地、覚えておられますでしょうか。
http://dittos.seesaa.net/article/279970303.html
(コート地の御紹介ページです。)

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 同じく長きに渡り 大変お世話になっております別のT様より、BESPOKEでの御注文です。
スーツ、コート、そしてオッドベストなど御納品が重なっております。
是非御紹介させて頂ければと思いますが、本来では昨年末には御納品しなければ成らなかった御注文の品々です。

 大変遅くなりまして申し訳御座いませんでした。
その分仕立ての方はかなりバッチリの仕上がりであり、自信を持ってお渡し出来ます。

 御来店の程、お待ち申しあげております。













・・・・・・・この度の雪、この寒さですから凍結も含め暫く残りそうですね。
どうか皆様充分にお気をつけ下さいませ。



 では、本年も弊店 並びに弊店BLOGを宜しくお願い致します。




皆様におかれまして、幸多き年に成ります様に・・・・。













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2012年12月11日

【 イセ込み 】


 こんにちは。
寒いですね! 12月も中旬に差し掛かり、皆様お忙しい事と思います。

 御蔭様で私もです、、、。少しでもBESPOKEの遅れを取り戻さねば!



 さて、メンズプレシャスが発売に成りました!
まだ御覧に成られていない方は是非書店へ! 素敵な写真も満載です。
 弊店はこの度も光栄なる扱いをして頂き、心より感謝と共に恐縮しております。

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誠に有難う御座いました。















 では、今週は K様御注文のブレザーに協力して頂き
久しぶりに技術のお話しです。


【イセ】 【イセ込み】 という専門用語をお耳にされた事があるでしょうか。

広く使われるこの技術は、様々な個所で日常的に使われる事ですが 一言で言ってしまえば強制的に生地を 『縮める』 と言えます。

縫いを利用し縮めたり、コテ(アイロン)によりクセをとる際にもイセ込み技術を使います。
裏地を据える時にも多用します。



上着において代表的なのは、やはり『肩イセ』や『袖イセ』ではないでしょうか。


肩の場合は 前身頃と後身頃を肩で縫い合わせる訳ですが、その肩線の長さにつきまして
あえて前の肩縫い目の距離よりも長い距離をとった後の肩縫い目を前の長さに合わせる様強引に縮めて縫い合わせるという事に成ります。


 肩は肩幅に準じていなければ成りませんが、人間の身体や機能性を考えれば立体的な要素を踏まえなければ成りません。


肩甲骨のボリュームを立体的に包み込み、更に骨格に伴い前側へショルダーラインを回します。
背中側にユトリを入れる事により、立体感もそうですが腕の稼働に伴う適切なユトリ分量も加えられる事になります。



・・・・・あっ、、、今週は袖についてでした!










 では仕切り直しまして、
上着において 袖が付くアームホール(AH)はかなり、かなり重要です。

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K様の BODY が完成です! 本当に遅くなりまして、申し訳ありませんでした。

K様は少々小柄な方です。
着せているトルソーより若干服の方が小さいですね!

沢山あった躾も随分外し、袖を付ける前にあらかた仕上げプレスを行ってしまいます。
袖が付いていない方がより掛けやすいですから、今のうちにクセ取り含め完成形態に!
そして芯や裏地、中綴じなど馴染ませておきます。









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肩パットも見えますね。
お一人お一人に合わせ、綿の詰め具合、サイズ等に至るまで手作りです。ハ刺しにより組み上げます。

2回目の仮縫いも無事に済み、まだ芯や裏地には余分分があえて残してあります。



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後から見たAH、ダキの部分です。写真を見るにピタピタですが、K様が着用すれば適正なユトリが内蔵されています。





機能性が高い袖にとりまして、小さなAHは必要不可欠です。
ビチビチに合わせる訳ではないですが、出来る限り小さく、そして腕の付け根に吸いつく様なAHを作る事が理想的です。(勿論日本人には顕著な前肩にも成っていなければ成りません。)


 これが難しいのです。


AHが小さければ小さい程、正確に身体の腕に付いている位置に合っていなければ当たってしまいますし、皺にも成ります。(左右非対称ではれば尚更 各精度が必要となります。)
そもそも着心地を損ないますね! 正確な採寸と裁断あってこそ、TAILORED(仕立て技術)が生きる訳です。






 ですが、AHが小さいという事は袖自体も細い筒に成るという事に成ります。



これでは窮屈であり、動き易い訳もなく、見映え的にもダメです!


小さく作ったAHに対し、たっぷりとイセを内蔵した ゆったりした袖(AH周りが!)を付ける事が理想的です。


しかし、イセの量に関してはこれも技術となり、ハンドメイドと縫製工場さんで入れられる量には差があります。
直接的に技術力に関係してくるので、その洋服のグレードが一目分かります。
 超お安い既製スーツ等は、ハンドのレベルから見れば無いに等しい位差があります。











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袖も組み上がりました。

袖のAHには『グシ縫い』を裁ち切りに施します。

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身頃の小さなAHに、口径大きな袖のAHを結合させるには、縫い縮めて小さくしなければ合体出来ません。これがイセ込みです。






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グシ縫いの糸を引っ張って絞り込みます。

ただ絞る訳ではなく、縮める個所や配分も大変重要な事なのです。
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立体的に作られたBODYのAHに際し、袖の設計や袖付け、イセの配分が悪ければ まともな袖付けには成りません。



ナポリ服で有名な『雨降り袖』も袖イセによるものです。
雨降りにはしませんので、絞ってギャザー状になった袖AHの縫い代を殺し込みます。




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ギャザー状になったAHはスッキリ綺麗になりました。グジュッと縫い代が重なり合わない様に潰します。

これで袖付け準備OKです!

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御覧の通り 丸み帯び、立体感が出てくる訳です。
これがジャケット特有のイセ袖です。

袖の設計にも色々と裁断者の価値観と思想が宿ります。

赤線が2本ありますが、袖山(肩先)のTOPと脇下です。

このラインの感覚が狭ければ、山の低い袖となり 機能性は上がります。
古き英国裁断などはとても低めです。
 ただ、低すぎると 『袖の座りが悪い』 といって、袖の落ち方・見映えが悪く成ります。




逆にこの2本線の間隔が広ければ、袖山が高いという事に成り、機能性は下がりますが 座り良く、見映え良い袖となります。

そのバランス加減に価値観が宿ります。何をどの位 優先すべきか、、、、

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・・・・技術の話しは難しいというか、かなり表層的な話となってしまう為 これが全てだと思わないで下さい。

今回の話しは表層的な一部に過ぎませんし、まともに書こうとすると論文に成ってしまいます(汗)!!




 ですが、単に袖にも様々な技術や思想が宿り 作り手側は頭を悩ましながら設計しています。
クライアントの御要望も加味しなければ成りません。


例えば、指揮者の方の注文であれば、、、それは設計も作り方も変えねばなりません。


裁断(型紙)をより理想的に具現化する為にTAILORED技術が必要となります。






裁断(型紙)上でイセ分量を多くする事は、紙の上の事なのでたやすい事です。
しかし、仕立てる上でそれをこなせなければ意味がありません。
不必要に過剰なイセを入れても意味がありません。




 カットとテーラードが密接な関係があるのはそういった所にも有るという事です!
これらはBESPOKEだけに限らず、HSでも補正により加減が出来るのも弊店の特徴でもあります。
正に製図が引けるからこそ、作れるからこそ加減が分かるという事ですね!








 K様の釦は、英国より取り寄せたメタル釦です! 色々悩まれながらお選び頂きました。

裏に確りMADE IN ENGLANDの刻印がありますね。なかなか重量感もあります。

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因みに、日本ではこういったプレーンなメタル釦では「アンティークFINISH」等の2次加工を施した物があります。
英国の世話になっている付属屋さんへ そう言った物はあるのか尋ねたところ、
「そんなの無い! 着ていればアンティークになるだろ!」

確かにっ!

 英国らしいですね。








・・・・・・・・・如何でしたでしょうか。
チンプンカンプンの方もいらっしゃる事と思います。

ですが、「色々考えて作られているんだな〜」と思って頂ければ それで充分で御座います!!





 K様、あと袖を付けたら完成です!
年内にお渡し出来る様に頑張りますので、今暫しお待ち頂けます様 宜しくお願い致します。







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2012年05月22日

【 INSIDE POCKET 】


 こんにちは。
昨日の金環日食は御覧に成りましたか?

朝のニュース番組も飽きるほどやっておりましたね。

 私は自分で話題にしておきながら、、、見ませんでした。
私以外の家族は喜んで見ていたようですが、私は辛うじて日食が終わりかけの欠けた太陽を見ました(汗)。

昨夜も遅く、起きられませんでした。お恥ずかしい限りです。

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なので、全く関係のない綺麗なお花で誤魔化させて下さいね!
これ、とても綺麗で素敵なお花ですが 何という名なのでしょう。購入する時聞けば良かったです。















 さて、本日は技術的なお話しを久しぶりに!

【 内ポケット 】 についてお話ししたいと思います。





大抵の上着には付けられていますね。

皆様も普段何気なく御使い頂いている内ポケットですが、実は内ポケットにも色々な考慮が成されているという話です。
技術的な話は眠たくなるかも知れませんが、御興味ある方は我々作り手側がどんな気を使って御作りしているのかが垣間見られると思います!








 最近では、とても安価な既製服にも 【 お台場仕立て 】 と言われる手法を使った身返し(内側の前方には裏地では無く、表と共地が使われているラペルを含めたパーツの事を指します。)&内ポケットが良く見受けられます。


 このディテールは、そもそもTAILORがゆくゆくの仕事に対し楽をする為!?に考案されたディテールです。

生地に拘り、仕立てに拘った誂えスーツは10年、20年とクライアント様と人生を共にするものです。

長きに渡り着用していれば、当然裏地が擦り切れる事もありましょう。


そんな時、お台場仕立てで内ポケットが作られていれば 裏地交換がとても楽に出来るのです。







・・・・・ですが、そんな伝統的でもあるTAILOREDのディテールではありますが 一時期こぞって目先のディテール主義に走った既製服などが氾濫しました。

袖口の本開きやお台場仕立て、上衿のヒゲ等が一気に注目を集めましたね。



 メーカーさんの既製服などでは、拘る矛先が本質的な設計や仕立て、着心地等はさておき、表層的なディテールでこそ差別化を図り良い服の証明!?と言わんばかり、、、な頃です。
随分雑誌等でも謳われていた事と思います。



 では、いまいち身体にも合わない安価な服、当然仕立てもそれなりの服であり数年着用すれば、洋服にもお疲れ感が出てしまう服。
そんな服を裏地が擦り切れるまで着用し、高価な御直し代を払いTAILORへ裏地交換の依頼をされるでしょうか!?


 殆どの方がそこまではされない事と思います。
であれば、あまり意味のない事(ディテール)ですよね。






大切な事(技術)はもっと見えない部分に宿ります。
ですが、そのあまり見えない部分は あまり売り文句にも成りませんから、どうしても見映え的、表層的に成るのは仕方が無い事なのかも知れません。


 知名度の高いお台場仕立て、私はその頃から嫌いに成りました(笑)!!





故に弊店のBESPOKEでは、レギュラーであればお台場を採用せず、内ポケット自体を丸ごと裏地に乗せています。


これであれば裏地交換に成っても、内ポケットごとバックリ裏地を剥がしてしまえばよく、身返しにも傷やダメージを掛かる事もありません。

内ポケット自体を作り直す事など たわいもない事です!

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・・・・・基本的に身体に合ったジャケット、身体の起伏に合わせ曲線多き服こそ良い仕立てでもあります。身体がそう成っているからですね!

様々な技術を駆使し仕立てられます。


であれば、内ポケットにあまり物を入れない方が良いに決まっています。
決まってはいるものの、、、皆様も御理解されているものの、、、これは! これだけは! という物が無きにしも非ずですよね。



その典型たるや 『 お財布 』 なのではないでしょうか。






良くお客様にも私がどうしているのかと尋ねられます。

私自身は、御札入れと小銭入れを分けて持っています。

そうです! 厚みを最小限に抑える事を考えるとこう成ります。

マネークリップ等も格好良いですよね。薄く、小さく、、、、とにかく最小限に! 

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小銭入れは、トラウザースの脇ポケットです。
しかし、NOプリーツのタイトなパンツを穿かれている方は小銭入れも響きそうですが、私の穿いている様なプリーツ入りであれば気に成りません。




 ただ、これらは私自身の個人的な手法であり、お勧めする訳ではありません。
(後は潔良く鞄を持たれるとか、、、)





・・・・・・クライアント様の中には 『 長財布 』 を使用されている方が少なくありません。



 この写真を御覧下さい。

シェイプの利いた上着ですが、赤点線が設計上のシェイプ位置(ウエスト位置)です。
そして青色の線の辺りに内ポケットがいます。

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通常 内ポケットの深さは 17〜18cm 位が一般的ではないでしょうか。
それだけあれば基本的には充分であり、深すぎても扱い辛い筈です。



 ここからがポイントです!!




一般的な深さの内ポケットなら、長財布を入れると深さが足りず、口からはみ出してしまいます。 危ないですね!


という事は、袋の深さをもっと深くすれば解決なんじゃ・・・・!?



駄目です!


内ポケットの深さを長財布がすっぽり入る位まで深くしますと、赤線のシェイプ位置へ達してしまいますね。(背の高い方なら問題ないですが。)


シェイプの利いた美しいシルエットが、長財布が入って来た事で崩れてしまいます。

 故に、内ポケット袋の底辺はウエスト・シェイプ位置へ掛からないようにする事が暗黙の了解なのです! 言われてみれば当り前の事ではあります。





・・・・では、内ポケットの口位置自体をもっと上げれば解決なのでは!?



それも駄目です!!


内ポケット位置が高過ぎると、入れ辛く、出し辛く、、、、大変使い辛くなってしまいます。

内ポケットの深さには限界があり、高さにも制限があり、、、、では長財布自体がダメ!?



そんな事はありません。


誂え服はクライアント様だけの為に仕立てられます。出来る限り御要望を具現化し、お応えしてこそ満足度高き洋服と成ります。



 そこで考案された手法が!!!






こちらの写真を御覧下さい。

お台場仕立ては個人的に好きではないと言いましたが(笑)、必要だからこそ用いるディテールでもあります。

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内ポケットの位置設定を、レギュラーより少しだけ上げます。
そうすると胸幅的に裏地乗せ内ポケットは使えなくなります。(欲しい口幅が裏地幅内に納まらない為です。)

故に、必然的に位置を上げてくる場合はお台場仕立てに成ります。




しかし、内ポケ位置を少し上げたところで たかが知れた上げ幅です。

だからこそ!!


ポケット口の上側にも収納スペースを設け、上側にも袋地を持たせます。

そうする事により、長財布もスッポリ安泰に納まる訳です。

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昔からある手法です。

このポケットをレギュラー使いするお店や、既製服でも見受けられますね。

普段何気なく使用する内ポケットでさえ、この様に色々と考慮のあげくに生み出された技術という物があります。




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・・・・因みに、弊店のお台場布は殆ど見えませんね! 見える必要も無く、誇示する必要も無く、、、ポケット周りがスッキリする様に、なるべく裏地で隠しています。
好み的にお台場を目立たない様に・・・・・(笑)。


お客様にとり、お台場である必要も無く、リクエストした訳でも無く、御要望を叶える為の一つの手段というだけです。皆様の拘りはそんな所では無いですよね!


技術というのは理にかなっていなければ成りません。

何が本質であり、それを素直に捉え、スマートに表現・具現化出来る事も大切な技術力ではないでしょうか。










・・・・・・・・・長かったですか? 今回の話は、これでも半分位しか解説していません。
その他、内ポケット内部の重さを支える為には!? 中綴じは!? 厚みによるFITTINGは!? 蓋は!?、、、



何が優先事項として上なのか、
何でもそうかも知れませんが、物事・物作りとはバランスでもあります。






技術とは、目に見える事の方が少ないかも知れません。
(以前御紹介した弊店のHS:トラウザースの内側尻グリのクセ取りにしてもそうですね!)

だからこそハンドホールやハンドステッチ、表層的なハンドソーンに注目がいきがちではあるかも知れません。


今回の様な内ポケットの話も、聞かなければ気にも留めないかも知れませんし、
お座敷スーツの様にシェイプさえ無い様な上着であれば、今回の様な考慮をしなくても良い! とも言えますね。


 技術は奥が深いです。
深すぎるのでキリが無いのです。一生勉強と言われる所以ですね。







 皆様、最後まで有り難う御座いました。









・・・・・・・・・・・毎週御覧頂きまして、本当に有難う御座います。
にも関わらず、来週の更新は休ませて下さい!! (5月29日分)

申し訳御座いません。

6月5日(火)は必ず更新しますので、これからも宜しくお願い致します。






posted by 水落 at 10:00| Comment(6) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする