2012年03月27日

【 クセ取りC 】


 こんにちは。
3月も終わりに近付いてきました。

 寒暖差激しく、雨も多く、これも春に向かっている証拠なのでしょうが全般的に気温も低く、今年の桜の開花は遅い様ですね。

ピカピカの一年生が入学式を迎える頃には丁度咲くでしょうか。

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 先日、お花屋さんで桜を購入してきました!
一厘も咲いていないつぼみばかりの物を選んだのですが、店内が温かいせいで早くも開花です!!

やはり桜は良いですよね。とても春を感じます。














 さて、この度は久しぶりに技術的なお話しをしたいと思います。
あまり良く分からないかも知れませんが、、、、イメージで感じて頂ければと思います。




 今回は HOUSE STYLE ORDER より、K様御注文のスーツからトラウザースをお借り致します。



BESPOKE ORDER では当り前の事が、縫製工場製となるとそうは行かない事が沢山御座います。

だからこその工期の差であったり、お値段などにも反映してくる訳ですが、御注文頂いた皆様に『少しでも良い物を』と 念頭にH・Sの御注文の品一点一点全て検寸・検品後にプレスを施しております。




これらHOUSE STYLE ORDERの様なステージの物作りによるオーダー店は沢山御座いますが、ここまで行っている所はまずないでしょう。
 技術もさる事ながら、結構時間もかかりますから・・・・。


ですが、行った物とそうでない物の差はかなり大きく、それを知っていればこそ と頑張っております。



 では御覧頂きましょう。












【 股部分の縫代 】

トラウザースの股部分は、フロントからお尻に向かってカーブを描いております。
その方々の身体の厚みやお尻の具合などで幅やカーブ具合は相当違います。


 これらを採寸(補正)により型紙的に合わせる訳ですが、その型紙線を縫製が邪魔してしまっては正しき採寸は意味を成しません。



また股やお尻周りに縫代がゴロゴロしていたら、それこそ穿き心地も悪いに決まっていますね!

では、どの様な処理をすれば 手を掛ければ具合が良くなるのでしょうか!?








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トラウザースをひっくり返して、お尻の縫い目(尻グリ)のカーブ線を見て下さい。
生地はピンチェックなので生地の縦地・横地が良く見えますね。

赤い線で 逆L字に縦地・横地の線を示してあります。


 この時、尻グリの縫い代は ピョ〜ンと起き上っています!!
専門用語で 『 ツレている 』 と表現致します。

簡単に言いますと、この起き上っている縫代は尻に当るという事です。
製図線は縫い目線を指しますから、その縫い目線より内側に縫代が邪魔をしてきていると考えて下さい。





 では、ここで技術です!
その縫代をクセ取りにより成形(地の目を移動し、時には伸ばします。)致します。

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起き上っていた縫代が マッタリと寝かしこまれ、身頃に吸いついています。

地の目を良く見て下さい。
先の写真での赤線は約90度のL字でしたが、その90度の角度をもっと狭く、、、
言いかえれば、製図線のカーブ具合より もっとRの強いカーブでクセ取りを行います。
 強制的な技術により縫い代を殺し込んでおります。



クセ取りは生地の復元力により、ある程度は戻ってしまいます。
ゆえに、強めに取っておいて丁度良いという事に成りますのでカーブのRも強めに!




 これで当たってしまうはずの縫代がスッキリ納まりました!!




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尻グリ線から股、小股の所と自然な製図線で確りクセを取り、縫い目を割り直します。





では、逆のお尻に行ってみましょう。
やっぱり起き上っていますね!!
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ソレッと!!

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後は、片足の中に もう片足を突っ込み、後身頃の左右を重ねまして 今の尻グリ縫代を Mの字 に成る様にバッチリ潰し込みます!


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これで股から尻周りは製図線通りのラインを描き、縫代が身体に当る事も無く、お尻に付かず離れず綺麗にホールドする事に成ります!!



こんなトラウザースを穿かれた事がありますか?
弊店顧客の皆様は当り前なトラウザースという事に成りますね!






・・・・これは、本当は私が工場さんにもリクエストし、そもそもその工程を施されて仕立て上がってきています。
しかし、、、プレス下さる方はTAILORではありませんから、私から見れば度合いが全く足りないので わざわざやり直している事に成ります。

それこそ、行っている物とそうでない物の差を知っているからです。



どうですか、スッキリと縫代が落ち着きましたね!


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裏側の処理(他にもまだありますが!)が終わりましたら、表に反し、プリーツから腰回りをもう一度確りカーブ線部などのクセを取りながらプレスします。


そして、次に足のクセ取りを行います。










【 股下のクセ取り 】


身体に合った良い服を作る為には、人体を確り把握し理解する必要があります。

では、御自身でも直立した横姿を鏡で御覧頂きますと・・・




足は真っ直ぐな棒ではありません。
太ももや、膝、ふくらはぎの筋肉、そして個人差は有りますが 踵の位置は少し後側にいますよね。




シルエットの太いトラウザースなら、筒が太いですから足と随分布地が離れる事に成りますので、自ずと足のフォルムに対する考慮は必要なくなっていくと言えます。

 しかし、細くなればなる程 足に筒が近い訳ですから 形状が合っていなければ当たる所があったり、突っ張ったり、、、そもそも筒が綺麗に落ちません。





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写真を御覧下さい。

これが一般的です。綺麗に真っ直ぐですね! 足はカカシの様に棒かっ(笑)。
縫製工場で作られる物はオーダー・既製含め基本的に全てこう成ります。
簡易に作っているテーラーメイドでさえも同じ事です。


 では、BESPOKE(ハンドメイド)の様に 手を施し、クセ取りという技術を施してあげると・・・・・






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どうでしょうか。
足の形状に成っていますね。膝位置から下のふくらはぎの所ではらんでいます。
かつ、裾の位置は直下位置より少しだけ後側にいかせています。












逆足のストレートの方と重ねてみましょう。
全然違いますよね!!

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ハンガーにかけてみても、そのカーブ具合は見てとれます。


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先に申し上げた様に、クセ取りは若干戻ります。
ゆえに強めくらいにカーブ線を描き、確りとプレス致します。
クセ取りとは地の目の移動です。時にはイセ込んだり、伸ばしたりもしますが平面である布地の目を強制的に動かし、様々な曲線や2次元での範疇を超える矛盾を3次元で表現する事でもあります。
 本当に些細な所でも多々使用される、求められる技術であります。




 このクセ取りを施したトラウザース、今迄の顧客様よりの御紹介写真で着用した感じが御覧頂ける事と思います。











【 ターンナップ カフ 】 TURN UP CUFF


その他、裾上げに関しては 折り返しのターンナップ カフがとても多いですが、確りと傾斜を付け差別化をしております!


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横地に伴い赤線を入れてみました。右側がフロント側です。

普通のお店では、この赤線で(真っ直ぐ、真横に)裾上げされるという事です。
穿いた時の違いがどれだけ大きい事か・・・・・お分かり頂ける事と思います。


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トラウザースの両脇に有る縫い目、その縫い目に対して直角に折り返す事は安易であり、単純な事です。
 しかし、斜めに折り返そうとすると矛盾が生じます。

これを補うのが技術であり、クセ取りも行われます。

布地である事=織物である事 だからクセ取りが利くのです!
(上げ足を取れば、織物で無いフエルトでも出来ますが・・・。)


















・・・・・・・・・これらは全て必要技術であり、弊店にとっては当り前のレベルでありたい。

BESPOKE ORDERでもHOUSE STYLE ORDERでも、弊店での誂えスーツに変りは有りません。





HOUSE STYLE ORDER では、今回説明を省いた事柄や場所も踏まえ 上着と共に2次加工としてプレスを施しております。
 少しでも皆様に誂えスーツの違いを感じて頂きたいからです。





BESPOKEにおきましては、これら同じ考えによる事柄がもっと精度高く、よりレベル高く具現化されております。特に、裁断後 組み立てる前からクセ取りを施し、立体的になったパーツを繋ぎ合せていき、繋げる度にクセ取りで馴染ませ、更に立体的にしていきます。

裁断された布地に対し、完成するまで当てられるコテ(アイロン)の回数が圧倒的に違います。

 こちらのステージは、基本前提ハンドメイドです。当り前です。
縫製工場製品、コテが足りないから足しているに過ぎません。










縫製工場製の御仕立がここまでグレードが上がったら嬉しくないですか!?


いくら拘って工場さんへお願しておりましても、扱って下さる方々はTAILORではありませんので求められる限界が合って当然です。
専門技術者との差が合って当り前です。だから私が補います。



専門技術者であるTAILORにおいても その技術レベルは相当差があります。
スポーツ選手を見てもそうですよね!

レベル、、、、私もまだまだ精進中に過ぎません。

 技術者は本当に一生勉強です。
果てしないです・・・・・・・。しかし、だからこそ楽しくもあり、遣り甲斐があるという物です!


















・・・・・如何でしたでしょうか。
技術の話をすると本当に長くなってしまいます。
一生懸命噛み砕いて書いても、なかなか分かり辛い事と思います。

仕立てる誂え服の本質は、表層的なディテール等では無く、本来はあまり見えなく、目立たない所にこそ宿っているのです。着れば分かります。


 色々書きましたが、単純に色々あるんだな〜〜と思って頂ければ それで結構で御座います!!



K様、御協力有り難う御座いました。
お納めさせて頂きましたトラウザースは、御連絡前にこんな事を行っておりました。





次に御注文を頂戴している ブラック・スーツ も是非御期待下さいませ。






そして、最後までお読み下さった方々、、、どうも有り難う御座いました!!!








posted by 水落 at 10:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月29日

【 WELT POCKET 】


 こんにちは。

本日は更新時間が遅れまして、すみませんでした。
定休日を利用し、先程 何年振りに成りでしょうか、、、健康診断へ行って参りました。

 普段は御蔭様で健康であり、病院が嫌いな私は滅多にいかない為、検査とはいえとても弱気に成ってしまいます。

検査着に着替えただけで既に弱った病人の様な気持に成ってしまいます。そして何故か怖い・・・・(汗)。

どこか悪い所が見つかったからとはいえ仕事は沢山ありますし、、、、心配してくれる家族の為にと言い聞かせやり過ごしてきました!

 健康であったなら、また3年位は行かなくて良いかな・・・と(笑)。


















 さて、今週は久しぶりに仕立てに関するお話しをさせて頂きたいと思います。




【 WELT POCKET 】 


・・・・切りポケットの一種であり、日本では 『 箱ポケット 』 と呼ばれております。
上着の胸ポケットや、ウエストコート、ステンカラーコートの腰ポケット等に用いられ、皆様におかれましても馴染み深いポケットである事と思います。



箱ポケットの作り片一つとっても『本箱』『偽箱』と技術的レベルの差があります。
通常は箱の出来上がり型に合わせ接着芯を張り、その芯に合わせ口布を折り畳んでいくのが一般的かも知れません。

 巷で売られているものの多くは『バルカポケット』なるカーブをした船底型をしておりますが、それも作り方は同じです。
これ見よがしなカーブは正に接着芯仕立てですね。
クセ取りで作るバルカは、クセが取れる限界もありますから自然的なカーブでもあります。




ただ、手間を惜しまぬHAND MADEなら、接着芯は一切使いません。
全て『フラシ芯』と呼ばれ、生地(表地)と芯が独立・分離していて、生地の風合いなどを変える事無く作られますが、それだけ手間や技術も掛かる事に成ります。








 では、ウエストコートのポケットで御覧頂きましょう。

最近では手抜き!?というか、簡略化され 腰の2つしか箱ポケットを付けないウエストコートも多いですが、やはり本式には胸・腰と4つ付けるべきです。

BESPOKEのウエストコートには、英国の古着等も含め、内ポケットさえ付けられていました。
紳士服は本当にポケットが多いのです。

ただ、身体にピッタリ合わせるウエストコート、その内ポケットに何を入れるのでしょう?
いれれば直ちに表に影響します。
(影響しない位ブカブカなFITTINGで作る所もありますが!)


故に弊店では あえてお付けしておりません。
(リクエストがあれば、勿論お付け致します!)











では、御覧下さい。

ウエストコートをこれから仕立てる為に、様々なパーツを裁ち合せ、表地には切り躾を打った所です。

写真には、身体の大きなT様のウエストコートに御協力して頂きます!

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・・・身頃の奥に見えるのが、芯であったり、前身頃の裏地、そして袋地や口布と成ります。
















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・・・切り躾を分離し、先ずは胸グセ(ダーツ)を処理し、クセ取りを行った後に 切り躾の印に伴い、チャコでポケットを作る位置に線を引きます。
傾斜や口径など正確に!
















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・・・口布には予め『力芯』と呼ばれるフラシの芯をセットしておき、ポケット出来上がり位置に合わせ、その口布や袋地を躾でセットし、地縫いを掛けます。

















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・・・地縫いを掛けましたら、この時点で箱型をコテ(アイロン)で織り畳み、箱型を作ります。
畳み方にも色々とあるのですが、上記が一番素直であり、昔ながらの手法に成ります。

先に上下方向を畳み、次に横方向を畳みます。
角は縫い代隠しと共に、見映え良く目打ちを巧みに使い『チョン丸』にします。

この時点で、手縫いにより折代をカラゲ止めしつつ、ポケット口には星縫いによるハンドステッチを掛けます。
















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・・・箱が出来ましたら、いよいよ鋏を入れます。
先の写真では、表側に袋地がありますね。

そこから箱の内側の部分に切り込みを入れ、袋地を裏側に引き出します。


上記写真は、既に引き出してあります。(裏側写真と成ります。)

表側、箱のサイドを身頃に手まつり縫いにより見えない様に身頃に縫い付け、サイドの折代を隠しつつ、補強も兼ねて閂ハンドステッチで止め付けます。

上記写真には、黒い袋地が見えますが 淵は段差をわざわざ付ける様に(階段に成る様に)切り揃えます。


完成してしまえば、全く見えない小さな手間でもありますが、、、袋地の輪郭がプレスにより表側に『アタリ』として出てしまい易いのです。
 ゆえに、この様に段差を付ける事により、そのアタリを防ぐ事が出来るのです。


袋地の両サイドにはグシ折がされていますが、これも理由あってこそ!
見えない小さな手間や、技術の積み上げにより一着の洋服が仕立てられております。















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・・・ポケットの出来上がった写真を見てみましょう!
M様のウエストコートに協力して頂きます。

写真手前が胸箱、奥が腰箱に成ります。
(肩方向から写しています。)

箱の角は品良くチョン丸で畳まれ、折代を隠す様にサイドには閂ハンドステッチが掛かります。
このステッチは、幅が広ければ広い程作るのは楽ですが、口径を狭くしてしまいます。

逆に、幅を狭くすれば口径をあまり縮める事はありませんが、折代が少なく成る分難しさが伴います。


箱を止め付けるサイドのまつり縫いは、見えないのでとても綺麗ですね!
これが機械(ミシン)を利用すると、どうしても見えてしまいます。

 着ている着用者には、全く気付かれないかも知れません。
着心地にも全く関係もありません。

何でしょうね、、、、こういう技術は、和食などの包丁細工みたいな物かも知れません。
ある意味では職人の自己満ですね(笑)。


ヘリンボーン柄なので『柄合わせ』を確りと!!

















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・・・では、次の写真を見て下さい。ここ、重要です!
胸箱の脇側写真です。

下部の地縫い側は確りと柄が合わされておりますが、、、サイドは内側にズレており、ヘリンボーンの柄に合っていませんね!!


 勿論これも技術であり、あえての行為です。

身体に合ったウエストコートは、胸部、腰部と綺麗な円柱を描けなくては成りません。
ポケット自体が平面に作られていたら、円柱に成った時 上手く馴染む訳ないですね!



ポケット口の部分は、あえて『 外回り量 』を与えます。

目につくフロント側は確り柄を合わせ、目立たぬ脇側で 柄がズレようとも外回り量を与えた上で据え、箱を止め付けます。

 逆に、もしこの外回り量が無いポケットを着用すると、箱の内側の生地が波打ってしまいます。


この理論は、厚紙を畳んだ時に感じて頂けますが、どんなに綺麗に、完璧に角と角を合わせ折り畳んでいっても、2回3回と折り畳めば必ずズレが生じます。これが内回り・外回りの差です。

車のタイヤ、カーブを曲がる時の『内輪と外輪差』とも同じです。
















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・・・この写真では、既に仕上げプレスも済み、釦も付け完成しています。
ポケット自体は自然と立体に成る様に仕立てられていなければ成りません。
(勿論ポケットだけでは無く、芯据えやプレスも、、、全て重要であり繋がっています。)

















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・・・トルソーに着せてみました。
当り前の様にポケットはカーブを描き、身体の丸味に沿います。

私達にとり、これが当り前の技術に成りますが、ステージが違えば作り方も違うので完成度合いにも差が出て当然です。
 箱ポケット、、、4個もあればかなり作るのに時間掛かりますからね(笑)。












・・・・・・・因みに、伊製の多くは船底にカーブしたバルカポケットが多いですね。
良く胸部の丸味に馴染むとも言われておりますが、、、直線だろうとカーブだろうと、技術があれば胸部に馴染む丸味あるポケットなど どちらでも、いくらでも出来ます。

と成れば、私達にとってはデザインでしかありませんね。
(ハンドではバルカポケットでも口布をクセ取りし、フラシ芯でカーブに作ります。)


バルカを作るサルトリアでの注文は、大半が2Pスーツでしょう。
では、少なからずとも3Pで注文が入った場合、そのサルトリアで作るウエストコートに付けられる箱ポケはバルカで作るのでしょうか!? 

 どこでもウエストコートの仕立ては軽視されがちです・・・・・。


下着であるシャツの上に着るウエストコート、より身体に馴染み立体的でなくては成りません。
裁断的だけでは無く、縫製的にも様々な技術があります。

芯据えを先に行い、ポケットを後から作る場合もあります。




 洋服に対する技術的な答えは一つではありません。
各手法はメリットもあればデメリットもあります。手縫いしかり、ミシンしかりです。

一着を仕立てる際に、どの様な思想に伴い、何を大切に、優先的に物作りするのか、、、
それに際し最適な技術は!? と筋を通し構築された仕立てこそ完成度の高い説得力ある洋服に成ると私は思います。










・・・・・・・今回はかなり分かり辛かった事と思います。
すみません。専門用語も多いでしょうし、、、
ただ、見えない・気付かない所にも沢山の技術があるとお感じ頂けましたら幸いで御座います!
















【 御連絡 】



来週の 12月6日(火)には
小学館より『 MEN’S Precious 』 が発売されます。
http://mensprecious.jp/index.html

靴に関する特集と共に、今回は洋服のオーダーに関しても掲載されております。
誠に光栄ながら、弊店も取材を頂戴致しました。
 心より光栄であり、本当に有難う御座いました。そしてお世話になりました。


どんな感じで掲載されるのか私も分かりませんが、、、皆様 是非御覧になってみて下さい!!






posted by 水落 at 13:31| Comment(2) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月26日

【 カラゲ縫い 】


 こんにちは。

迷惑な被害をもたらす台風でしたが、
その間は気温も下がり随分過ごしやすく快適ではありました。
ですが、、、少しずつ暑い夏が戻りつつありますね。

 今年の海は随分空いているそうですが、皆様におかれましては どの様にお過ごしに成るのでしょうか!?











 さて、この度は BESPOKE TROUSERSより、普段はあまり気付かれない!? ディテールに付いて御紹介させて頂きます。


その箇所とは、 『 縫い代処理に付いて 』 です。





TROUSERSの根本的な構造は随分長い間変る事なく、変えようも無く!? 続いており、穿きこむ足に対し、外側と内側の縫い目、そして尻縫い目、フロントは釦かファスナーで閉じられるスタイルが一般的です。


 洋服は幾つかのパーツで構成されており、それらを縫い合わせる以上は 『 縫代 』 というものが発生致します。


縦糸と横糸で織られた生地を裁断しますと、当然の如く 鋏を入れたその裁ち切り線は解れてきてしまいます。

故に、処置が必要と成ります。






例えば総裏地仕様の上着などは、縫代が発生する内側等は全て裏地で覆い隠される事に成ります。
なので、縫代含め 裁ち切り線が露出する事が有りません。







では、背抜き仕様等ではどうでしょうか。


総裏地であれば、本来隠れていた筈の背中の内側が(縫代類)が露出してしまう事に成ります。

であれば、その露出した縫代を 『 解れない様に 』 『 見映え良く 』 という事を考え処置する必要が出て来る訳です。



その処理のやり方については何通りも手法が御座います。
ハンドメイドやマシンメイドに限らず、物作りの価値観や思想により その何通りもある処理の手法から選ばれて行われる訳です。




 これら縫代の処理法に関し、様々な手法が有る分 それらにはメリット・デメリットが存在しますので、それを見るだけで その服作りの価値観が垣間見れる部分でもあると言えます。

















 では、この写真を見て下さい。


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左足の裏返し状態で、センターには内脇縫い目があります。
左側が股、右側が裾側です。下部には膝裏が付けてあります。

 様々な理由により、サイズ調整含め お直しに対応出来る様に縫代は多めに取られています。

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そんな縫い代(裁ち切り線)は、仕立てる上でどんどん解れが進んでしまいます。

既製服含め、工場生産物、または そこ(縫代処理)に価値観を見出さぬTAILOR仕立て物では、その縫代解れ止めに 『 ロックミシン 』 を掛けます。

 皆様も見た事が有る事と思います。
それが極一般的な処理方法であり、安易で楽に処置出来るのが特徴です。









 では、昔ながらのTAILOREDでは、どの様に処置していたのでしょう。



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手縫いで解れ止めを行います。これを 『空カラゲ』 と言います。
(一方通行の斜線の縫い目が羅列されます。)

カラゲ縫いは所々で使われる縫い方ですが、主に何かと何かをカラゲ止める縫い方です。
要するに、解れ止めを施しつつ縫い止める縫い方でもあります。
 空カラゲは、何かに縫い止めるのではなく、単体の裁ち切り線を解れ防止の為にカラゲるので 『 空 』 という事なのでしょう。


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生地は、縦糸と横糸の構成から成り、解れる=糸が組織から外れる という事ですね。
であれば、裁ち切り線を縫糸で絡め、織糸が外れない様に押えれば良いという事です。






 この手法は、古い英国のTAILOED(古着)でも見受けられます。
(それらは何倍も粗く、かなり適当にカラゲてありますがっ!)

ですが、カラゲてあるのは丁寧に手を掛けた仕立てである証明でもありますが、英国製古着の多くはカラゲ縫いさえ行われず、 『 裁ちっぱなし!=縫代未処理 』 が多いのも事実です。

 なぜならば、当時の生地は今で考えれば相当地厚であり、打ち込みもガチガチに密であり、あまり解れてこないのです。
であれば わざわざ手を掛ける必要もないですね!








こんな目立たない所に手縫いで、手間をかけ、、、、

これは穿き心地等には全く影響しません。ロックミシンでも、手縫いカラゲでも変らないのです!




 では何故あえてカラゲ縫いを施すのか・・・
それは、今では付加価値でしかありません!


昔ながらの手法で、こんな所にまで手を掛けていますよ! 
と、それだけの事です。










糸は主に、白毛という躾に使う太くて安い綿糸が使われます。

しかし、生地が薄地だと この太い白毛ではプレスによる 『 アタリ 』 が出てしまうので、そういう時は生地と相性を合わせ、細い糸でカラゲ縫いをします。



また、フロント周りや、特に尻縫い目の縫代は、着用する事により かなり摩擦を受ける個所でもある為、細めのまつり糸(シルク)等を使い、二重縫いします。

上から下までカラゲて、そのまま上へ戻ってきます。
そうすると、斜線の並びが逆向きで交差しますので 『 ×の字 』 の様に成ります。







 この手縫いによるカラゲ縫い、これだけでは 『 ふーんっ 』 で終わってしまいますが、、、


そもそもTAILOREDとは、永い間着用する事を前提とし、お直しがやり易い様に様々な工夫が凝らされてきました。お台場仕立ても その一つですね。

 ミシンより、手縫いの方が解くのも楽です!





では、TROUSERSで考えてみましょう。
大抵は 『 膝裏 』 が付いております。

穿き込みや動きによる滑りの効果や、膝の抜けを防ぐ効果もあります。
(古着には無い物も多くあります。)


長きに渡り着用すれば、膝裏が擦り切れる事は自然の道理です。

擦り切れてしまったら交換しましょう! という事に成りますね。

膝裏は、脇の地縫いで縫い込まれていますが、そもそもロックミシンや手縫いによるカラゲ縫いでも前身頃に縫い止められて合体しています。


ロックミシンを手早く、綺麗にほどくにはテクニックが必要です。
また、一度解いたロックミシンを、もとと同じ様に綺麗に繋げ、裁ち切り線に綺麗に掛ける事は大変難しい事です。




 では、手縫いであればどうか、、、

部分的に、安易に手早く解け、カラゲ直しも大変楽です!
ハンドホール同じく、このカラゲ縫いも、擦り切れれば安易にカラゲ直しが出来るのです。





如何でしょうか!? 
と、言われてもですよね。膝裏交換を行った事が無ければ、どれだけ違いがあるのか いまいち分からない事と思います!




特に穿き心地に影響なく、目立たなく、お穿きに成る方しか分からない個所です。



ハッキリ言って、そんなもどちらでも良いですよね!



だからこそ、物作り・服作りにおける思想や価値観に基づき 手縫い・ミシン踏まえ様々な手法が選ばれ構築されていきます。

 スーツが一着出来るまで、、、

型紙作成から、最終プレス、釦付けまで 作り手である私達は様々な想いを馳せ、本当に多くの工程と時間をかけて仕立て上げて参ります。





個所によって理想的な処置方法は違います。

こんな些細な部分でもTAILOREDの一部であり、高額な御代金の一部であると私は思っております。


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追伸

・・・・このカラゲ縫い、トニックやフレスコ等には不向きでもあり、私達もあえてロックミシンを使う場合もあります。
 それは手抜きでは無く、優先すべくは素材対応です。




ことロックミシンや、ロック糸に関しましても、それらの技術発展は物凄いです!

BR○○○○等のラグジュアリーブランドもロックミシンを使います。
先に説明した通り、ロックは悪い訳ではありません。



あのレベルのブランドには、SUPER 180や200等の繊細な生地も多数扱います。
普通に縫代にロックミシンを掛ければ、プレスによるロック糸の『 アタリ 』がでます。


そんな事は百も承知だからこそ、アタリの出ない糸の工夫が施されます。



単純に極細の糸、、、これは当然 考えますよね! 本当に極細の糸!!

また生地に糸の色合わせをしなくても良い様に透明な糸さえ有ります! 釣り糸みたいです。

 はたまた、フワフワな糸で まっ平らに潰れる糸(上手く説明出来ません!?)という攻め方の糸もあり、心底感心したものです!


こういった技術開発もある意味では本当に凄いのです。









ある意味では対極に位置するステージの物同士ですが、それらの持つ価値観が違えば 尊重すべき事柄が変り、攻め方もこれだけ違うのです。






洋服作り、、、、、本当に面白いです。









posted by 水落 at 11:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 仕立てについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする